ニュース速報
ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への顧客流出深刻

2024年05月05日(日)08時18分

 香港では、コロナ禍終息後の回復が遅々として進まない。コロナ禍による3年におよぶロックダウンを経て、他国出身者の多くはこの地を離れ、観光客の数はコロナ前の水準とは比較にならないほど減少した。写真は尖沙咀のショッピングモール。4月29日撮影(2024年 ロイター/Tyrone Siu)

Jessie Pang Joyce Zhou Edward Cho

[香港 30日 ロイター] - ジャッキー・ユーさん(48)は10年以上前、香港で日本製品のギフトショップを開いた。当時、観光・ショッピングで名高い旺角地区は、売店や飲食の屋台、そして観光客の熱気で溢れていた。

時は流れて12年後。旺角のあちこちで生き残りのための苦闘が続く。顧客の海外移住、中国本土でのショッピングや円安を利した日本への旅行を選ぶ地元住民、観光客の激減といった悪条件が重なったためだ。

ユーさんは、実店舗を閉めてオンライン販売に移行するという「胸が張り裂けるような」決断を余儀なくされたと語る。

売れ残った文具や玩具を収納ボックスに詰めながら、ユーさんは「話をしようにも泣きたくなってしまう」と言う。

「観光客の姿は少ない。中国本土からもほとんど来ていない」

香港では、コロナ禍終息後の回復が遅々として進まない。コロナ禍による3年におよぶロックダウンを経て、他国出身者の多くはこの地を離れ、観光客の数はコロナ前の水準とは比較にならないほど減少した。ここに来て、家賃の高騰と人手不足も追い討ちをかけている。

経営者らはショッピングモールについて「死んだも同然」と表現する。人通りは少なく、店舗には「入居募集中」や「近日開店」という掲示が目立つ。

会計士部門から選出された立法会議員である黄俊碩氏は4月26日、立法会での報告で、2024年の第1四半期の登記抹消件数が昨年同期比で70%以上多い2万社以上に達したと述べた。

香港飲食関連産業協会の黄傑龍会長は、公共放送の香港電台(RTHK)で、ここ1カ月で推定200-300軒の飲食店が廃業したと述べ、この傾向が続くとの見方を示した。

李家超香港行政長官は30日、廃業の増加に対する懸念を一蹴した。

「世界は常に変化しており、さまざまな産業が適応を迫られている。うまく行かない経営者が出てくる一方で、新規参入組が市場に登場しつつある」

5月1日からのゴールデンウィーク休暇は、これまで物販・娯楽産業にとっては書き入れ時だったが、楽観的になれない企業は多い。

「ゴールデンウィークにはあまり期待していない」と語るのは、旺角・女人街の麺料理店で働くウェンディさん(54)。

「この通りにも観光客が大勢いたが、今はどこかに消えてしまった」

香港住民も地元の店から離れつつある。外食やエンターテインメントを求めて中国本土に行き、中国南部の都市、深センに足を運ぶ。その方が価格も安いしサービスもいいという。

野村の中国担当チーフエコノミストとして香港に拠点を置く陸挺氏は、「香港住民の消費行動が北に向かうというのは、明確なトレンドになっている。週末には多くの香港人が深センに行って消費する」と語る。

「理由は、深セン、広州、そして長沙でさえ、この5年間で物価がほとんど変化していないからだ。だが香港は違う。本土との価格差は拡大しており、だからこそ香港の人々は消費のために北に向かおうという気になっている」 

香港は昨年、コロナ禍終息を受け、中国本土との通行を再開した。香港観光委員会の記録によれば、2023年の大陸からの観光客は、コロナ禍前の2019年と比較して38.9%落ち込んだという。

大陸からの日帰り観光客による消費は2023年に36.4%減少し、2019年の1人あたり平均2200香港ドルから、昨年の通行再開後は1400香港ドルになった。

本土との境界線に近い上水地区の住民は、以前であれば、化粧品、医薬品から日用品まであらゆるものを買おうと中国本土から押しかける訪問者のせいで街がひどく混雑し、家賃も高騰する、と不満を漏らしていた。だが、この地区でも今は閑古鳥が鳴いている。

上水地区で化粧品店を経営するリーさん(30)は、地元の消費者は今では深センで買物をする風潮があり、「閑散期」の到来が早くなったと語る。

旺角地区でハンバーガー店を営むリーさん(35)は、行き来が再開して以来、業績が悪化していると語った。

「夜8時を回れば誰もいない。休日になれば、さらにひどい。観光客は1人もいない。先のイースター休暇の時など、店で3時間うとうとしても問題ないくらいだった」

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

大統領選後に拘束記者解放、トランプ氏投稿 プーチン

ビジネス

ドイツ銀行、9年ぶりに円債発行 643億円

ビジネス

中国は過剰生産能力を認識すべき、G7で対応協議へ=

ワールド

ウクライナ支援、凍結ロシア資産活用で25年以降も可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結果を発表

  • 2

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決するとき

  • 3

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレドニアで非常事態が宣言されたか

  • 4

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 7

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    魔法の薬の「実験体」にされた子供たち...今も解決し…

  • 10

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中