最新記事
ヘルス

アクティブシニアの多くは、「ゲーム」が日課...年を重ねても「元気と交流」が得られるとの調査結果が

GAMES HELP US AGE WELL

2024年5月23日(木)18時05分
ラリッサ・ヨルト(豪RMIT大学教授)
スマホゲームを楽しむシニア

ポケモンGOなどのゲームは高齢者の外出を後押しする MIXMEDIA/GETTY IMAGES

<社会との交流を促し、健康維持にも役立つ。上手に年を取りたいならゲームをしない手はない>

オーストラリア在住のマーガレット(63)は遠方に住むきょうだいとオンラインでワードゲームの「スクラブル」をするのが日課だ。トム(70)は単語当てゲームの「ワードル」にはまり、毎日成績を友人に報告している。ペネロピー(67)は離れて暮らす孫たちと一緒に、バーチャルな世界でゲームに興じる。

オーストラリアの高齢者は、実にさまざまな形でオンラインゲームを楽しんでいる。

コロナ禍のロックダウン(都市封鎖)において、ゲームは手軽に創造性を発揮し、読み書きの能力を鍛える場であると同時に、人と交流して健康を維持するための手段でもあった。2020年にはWHO(世界保健機関)がゲームはコミュニケーションと社交を促進し、心身の健康に好影響を及ぼすと認めたくらいだ。

高齢者はゲームをやらないというステレオタイプな見方は今も根強いが、そんな思い込みはそろそろ捨てたほうがいい。ゲームは高齢者を元気付け、上手に年を重ねるのを助け、しかもペットとのよりよい関係まで築かせてくれるのだから。

Shirley Curry: The Gaming Grandma Documentary Trailer | Gameumentary

テクノロジーユーザーの中で、シニア層ほど多様なグループもない。楽々と新しい技術を使いこなす強者から、ほとんど使ったことがなく自信もないという人まで幅広い。

シニアの健康についてまとめたビクトリア州の報告書は、上手に年を重ねる秘訣を挙げた。「前向きな姿勢」「目的意識」「敬意に根差した人間関係」「社会とのつながり」「社会の変化に付いていく能力」「生活と経済力の安定」「健康面での自立」「移動手段の確保」の8つだ。

この中にはゲームと遊びを通じて実現できるものも多い。

ペットと宝探しするゲーム

ロイヤルメルボルン工科大学(RMIT)の同僚とオーストラリアでモバイルゲームの使用実態を調査したところ、ゲームが世代間の交流を促し、創造性を引き出していることが分かった。「スクラブル」などの単語ゲームは日常に遊び心と社交性をもたらし、年配の兄弟姉妹は毎日オンラインゲームを通じて交流し、祖父母は遠方の孫と対戦していた。

ポケモンGOのようなゲームアプリはかねて運動意欲や社交性を刺激してきた。日本からスペインまでさまざまな国の人々がポケモンGOをプレイすることで外に出て歩き、地元を探検し、時にはほかのプレーヤーと協力して大会で勝利を争う。

16年、私はスペインのカタルーニャ州で高齢者とポケモンGOの関わりを調査した。すると高齢者は街角でポケモンを捕まえながら、若者と一緒になって遊んでいた。楽しく体を動かすことができるためリハビリ効果も抜群で、ソーシャルワーカーがポケモンGOを健康のために処方するほどだった。

こうしたゲームと世代間交流の関係を探る研究は増えている。一方、ペットとの関係にゲームが果たす役割には、なかなか光が当たらない。

3人に1人が人間よりも動物が好きだというくらい、オーストラリア人は動物好きだ。だがその現実とは裏腹に政府は高齢者福祉においてペットの重要性を認識せず、高齢者が施設に入る際にはペットと離れ離れになるケースも多い。

大勢の高齢者にとって、動物は体だけでなく社会的な意味でも健康維持に欠かせない存在だ。ならばペットとの絆をテーマにゲームを作らないのはもったいない。

newsweekjp_20240523023531.jpg

筆者は高齢者と地域住民がペアでペットを散歩させるゲームを考案 KUMIKOMINI/GETTY IMAGES

ロックダウン中、メルボルンの獣医師らがつくるチェリッシュト・ペッツ財団は地域社会を応援しようと試行錯誤したが、その1つがゲームだった。私も財団のために英エディンバラ大学のジェーコブ・シーハン研究員と共同で「ペット・プレイング・フォー・プレイスメイキング」を開発した。ペットと暮らすシニアが地元住民とペアを組み、宝探し形式でほかのペアと競い合う「お散歩ゲーム」だ。

足腰が弱くウイルスへの免疫力が低い高齢者が家でパズルを解くと、パートナーのスマホに目的地が表示される。これを基にパートナーは犬などのペットを散歩させ、さまざまな場所を訪ね歩く。参加者からは地域社会とつながることができ、ペットも喜んだとの感想が寄せられた。

うまく年を重ねるには、感情と体と精神の全ての領域においてポジティブな道筋を見つけるのが肝心。それには社会との接点や敬意ある人付き合い、運動が大切になる。

ゲームは高齢者を元気付け、世代間の交流を充実させ、健康維持に効く。元気に老いるため、皆さん、もっと遊んでみてはどうだろう。

The Conversation

Larissa Hjorth, Professor of Mobile Media and Games., RMIT University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.



ニューズウィーク日本版 2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月7日号(9月30日発売)は「2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡」特集。投手復帰のシーズンも地区Vでプレーオフへ。アメリカが見た二刀流の復活劇

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

EV分野の脱中国化で欧州と南アの協力必要、BMW幹

ビジネス

日銀版需給ギャップ、4─6月期は-0.32% 21

ワールド

独ミュンヘン空港、ドローン目撃で一時閉鎖後に運航再

ビジネス

アマゾン配送ドローン2機が衝突事故、米NTSBとF
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 7
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 8
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 9
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中