コラム

【EVシフト】数多のEVメーカーが躍動する中国市場、消えた日本企業

2020年11月18日(水)18時20分

しかし、蔚来汽車は創業以来ずっと赤字で、2019年末までの累損は4300億円を超え、車両の発火事故が起きるなど企業の存続が危ぶまれた。2020年になって合肥市政府などの出資と国有銀行6行からの融資で総計2700億円の資金を獲得して一息ついたところである。2020年1~10月には昨年同期の2倍以上となる3万1430台を販売して新興EVメーカーのなかではトップである。

蔚来汽車は2018年にニューヨーク証券取引所に株式を上場しているが、新興メーカーのなかでは他にプラグイン・ハイブリッド車メーカーの理想汽車が2020年7月にナスダックに上場し、8月にはEVメーカーの小鵬汽車(XPeng)がニューヨークに上場した。

小鵬汽車の創業者はアリババの元社員で、2014年に創業し、それ以来、アリババとシャオミからの出資を受けてきた。同社は「スマートEV」を標榜し、AIを利用して自動運転する車を作ろうとしている。同社も自社工場を持たず他の自動車メーカーに生産を委託していたが、2020年上半期に自動車生産の許可を得て広東省に工場を建てた。2020年1~10月の販売台数は1万6057台である。

50万円を切る電気自動車も

これら新興EVベンチャーを迎え撃つ既存の自動車メーカーの代表格は、メーカー別で販売台数トップのBYDである。「既存の」といっても、同社も2003年に自動車生産に参入したわりと新しい民間自動車メーカーで、自動車を作り始める以前は二次電池の生産や電子製品の受託組立をしていた。自動車産業に参入したのも将来EVメーカーになるための布石であり、中国の元祖EVベンチャーといってよい。

既存メーカーのなかで今年の夏に驚くべき動きを見せたのが、上汽GM五菱である。このメーカーはもともとスズキから技術移転された軽ワゴン車を作る国有自動車メーカーだったが、2002年に上海汽車とGMが資本参加し、上汽GMグループの一員となった。

EV業界ではそれほど目立つ存在ではなかったが、今年8月に販売価格が2万8800元(46万円)という破壊的なお値段のEV「宏光MINI」を売り出すと、たちまち月間2万台を売り上げるヒットとなり、ブランド別でテスラの「Model 3」を抜いてEVのトップに躍り出た。

「宏光MINI」は2ドアで、後部のシートを立てると4人乗れる、という軽乗用車タイプのEVである。航続距離は120キロと比較的短いが、最高時速は100キロまで出せるという。搭載する蓄電池の容量を小さくすることで値段を安く抑えているのであろうが、それにしても50万円を切るEVというのは驚くべき安さである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正:中国軍事演習2日目、台湾周辺で「権力奪取能力

ワールド

ロシア軍参謀次長、収賄容疑で逮捕 高官の拘束相次ぐ

ビジネス

日本株ファンド、過去最大の資金流出=BofA週間調

ビジネス

トヨタ、液体水素エンジン車の航続距離1.5倍の13
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決するとき

  • 2

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレドニアで非常事態が宣言されたか

  • 3

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」...ウクライナのドローンが突っ込む瞬間とみられる劇的映像

  • 4

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 5

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 6

    テストステロン値が低いと早死にするリスクが高まる─…

  • 7

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 8

    韓国は「移民国家」に向かうのか?

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    国公立大学の学費増を家庭に求めるのは筋違い

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 8

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story