コラム

「逆切れ」ロシアによる交渉中断も、北方領土問題は焦らず騒がず

2022年04月05日(火)16時37分

領土問題に時効はなく騒ぎ立てるとロシアも騒いで逆効果(2019年に行われた北方領土の日の式典) REUTERS/Kim Kyung-hoon

<日ロ関係は冷戦モードに戻るが静かに要求を続ければいい>

ロシア外務省は3月21日、日本が非友好的措置を取ったため平和条約交渉を中断するとの声明を発した。

国連安全保障理事会の常任理事国でありながら、ロシアは国連憲章を踏みにじってウクライナに武力侵攻した。これに日本が制裁措置を取ったことに逆ギレして、日本の痛いところを突いたつもりでいる。

平和条約締結とは、北方領土問題を解決することだ。戦争終結と両国間の関係樹立なら、1956年の日ソ共同宣言が既に定めている。これを平和条約と呼んでいないのは領土問題が未解決だからだ。

北方領土問題は、安倍政権時代に初めて浮上した問題ではなく、戦後いくつもの山と谷を越えてきた。

冷戦時代にソ連は、「日本との領土問題は解決済み」と交渉を拒否。国力の弱ったソ連末期に訪日したゴルバチョフ大統領が、ようやく北方四島の名を挙げた共同声明を発し、今回ロシア外務省が中断したビザなし交流の枠組み設定で合意したにすぎない。

大きなヤマは、1992年からのエリツィン時代に2回訪れた。1993年10月の東京宣言で、彼は四島の帰属問題を「歴史的・法的事実に立脚し、両国間で合意の上作成された諸文書および法と正義の原則を基礎として解決する」ことを確認した。

その後は自民党が政権の主導権を失って日ロ関係は停滞するが、橋本政権時代の97年に次のヤマが訪れた。彼は、領土問題が進まなければ経済関係も進めない、「政経不可分」の政策を放棄して双方を同時に進める用意を表明する。

これにエリツィンが応えて同年11月に行われた首脳会談では「2000年までに平和条約を締結するよう全力を尽くす」ことが合意された。これは、2000年に就任したプーチン大統領に引き継がれ、2001 年3月に行われた森喜朗首相との首脳会談後の共同声明では1956年の日ソ共同宣言が明記されるとともに、東京宣言の趣旨も再確認された。

その意味するところは、歯舞(はぼまい)・色丹(しこたん)の返還はかなり確かなものとなり、残るは国後(くなしり)・択捉(えとろふ)の問題になったということだ。

しかしここでヤマは下り坂になる。2001年4月に発足した小泉政権で田中真紀子外相が四島即時一括返還を強く主張したことが、その端緒となる。

また、それまでの展開はゴルバチョフ以後の米ソ・米ロ関係好転を背景としていたが、2007年に米ロ関係が下り坂に転じ、2008年にはロシアがジョージア侵攻、2014年のクリミア併合で決定的に悪化した。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、4月は19.2万人増 予想上回る

ビジネス

EXCLUSIVE-米シティ、融資で多額損失発生も

ビジネス

イエレン米財務長官、FRB独立の重要性など主張へ 

ビジネス

米3月求人件数848.8万件、約3年ぶり低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story