コラム

ウクライナ危機でロシア寄りの立場を取り続けるドイツの右翼

2022年02月21日(月)15時48分
ショルツ独首相

影が薄いのはなぜ?(2月15日、モスクワでプーチンと会談したドイツのショルツ首相) Sputnik/Sergey Guneev/Kremlin/REUTERS

<ロシアのウクライナ侵攻を止めようとアメリカやNATOが外交努力や軍事支援を行うなかでもドイツが協力に及び腰なのは、ドイツという国家は本質的に「ロシア贔屓」だからだ。その傾向は極右にはっきり見て取れる>

ウクライナ情勢が緊迫する中、ドイツの腰が重い。国際社会に西ヨーロッパの大国としてロシアとの交渉に積極的な役割を果たすことを期待されているが、天然ガスをロシアに依存しているドイツは、その行動に制約が課せられている。一方ドイツの極右政党AfD(ドイツのための選択肢)は、政府の弱腰を批判するのではなく、むしろロシアに親和的な立場を取っている。その背景には何があるのか。

煮え切らないドイツ政府

ウクライナ情勢の緊迫化について、ドイツは煮え切らない立場を取っていると世界から思われている。天然ガス供給の多くをロシアからのパイプラインに依存していることなどが理由だ。1月末には、ウクライナへの支援として5000個のヘルメットを送り、武器などの支援を期待していたウクライナ側を失望させた。2月15日、フランスのマクロン大統領に遅れることおよそ1週間、ショルツ首相もプーチン大統領と会談したが、それまではSNSで「ショルツはどこ?」と揶揄されるぐらい、この問題について存在感は薄かった。

強硬な態度を取るロシアに対して、弱腰とも取れるドイツ。気になるのは、こうした対応が市民の鬱憤を溜め、タカ派的な主張をする極右勢力の台頭に繋がらないかということだ。しかし今回に関しては、その懸念はしなくてよいかもしれない。なぜなら、ドイツの右翼勢力、たとえば国政政党であるAfDは、ドイツ政府以上にロシア寄りの立場を取っているからなだ。

AfDの親ロシア政策

『ヴェルト』紙によると、1月以降、AfDの国会議員はロシアのメディアに繰り返し出演し、同国の立場に理解を示す発言を行なっている。2月15日には、院内幹事長のベルント・バウマンがロシアのクリミア併合を正当化した。党の公式声明でも、ロシアのクリミア併合は容認されている。ドイツ政府および諸政党がウクライナのNATO加盟について、国家主権を尊重する立場から言及を避けているのに対し、AfDは声明で、事実上の加盟の断念を呼びかけている。

こうしたAfDの見解に対して、政府与党のFDP(自由民主党)院内幹事コンスタンティン・クーレは、AfDを「ロシア国家プロパガンダの手先」と述べた。野党CDU(キリスト教民主同盟)の外交政策担当ローデリッヒ・キーゼヴェッターも、AfDはロシアの外交戦略に貢献していると評している。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:メダリストも導入、広がる糖尿病用血糖モニ

ビジネス

アングル:中国で安売り店が躍進、近づく「日本型デフ

ビジネス

NY外為市場=ユーロ/ドル、週間で2カ月ぶり大幅安

ワールド

仏大統領「深刻な局面」と警告、総選挙で極右勝利なら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 4

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 5

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 8

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story