コラム

神仏をも恐れぬ中国の監視と弾圧、ビッグデータをフル活用

2018年07月28日(土)14時10分

旧正月を祝うチベット仏教寺院を監視する武装警察(北京) Damir Sagolj-REUTERS

<中国・内モンゴルを訪れた筆者が連行された部屋で見た監視画像......身元を即座に割り出す情報網の矛先はイスラム圏へと向かう>

人工知能(AI)といったIT発展の波に乗り、中国は少数民族への監視を強化している。

まず、私が夏の帰省中に経験した出来事から記そう。16年8月、日本から実家のある中国内モンゴル自治区オルドス高原に帰省した。老父がチベット仏教の活仏に会いたいというので、案内を買って出て、ある寺を訪れた。活仏とは代々生まれ変わる高僧のことだ。

その活仏は10代前半の少年だったが、前世は同自治区仏教協会の主席を務めた有力な高僧だったので、現世でも当局に厳重に「保護」されている。

境内に入ると、十数台もの監視カメラが方々に設置されていた。「清朝時代に建てられた名刹だから、文化財を保護するためのものだろう」と無邪気に思いながら、活仏の部屋へ。挨拶も終わらないうちに、警官数人が傍若無人に乱入してきた。そして私たち親子が連行された別室は壁一面がモニターになっており、机にはいくつものパソコンが置いてある。

身分証明書を求められ、仕方なくパスポートを見せた。「日本人がどうしてこんな田舎の寺に来て、小坊主に会おうとするのか」と、警官たちは日本国籍の筆者をにらみながら、「大野旭」という日本人名で取得したパスポート情報をパソコンで照合する。すぐに「『著名な』楊海英教授か! 『墓標なき草原』の先生」と皮肉を発した。

『墓標なき草原』(岩波書店)を09年に出版して以来、筆者は中国、特に内モンゴル自治区で「注視」される身となった。文化大革命中に発動されたモンゴル人ジェノサイド(集団虐殺)を研究した歴史書だ。この事件は中国でタブーとされており、語ることすら禁止されている。

刊行後間もなく、中国語とモンゴル語に翻訳されて内モンゴルに伝わり、当局を刺激してしまった。拙著の流布は取り締まられ、所持だけで逮捕される事態も複数起きた。筆者に関する情報は全て治安当局のデータベースに蓄積され、オルドス高原の一寺院で瞬時に個人情報の詳細がばれてしまったのだ。

こうした監視は内モンゴルだけではない。新疆ウイグル自治区では「公衆衛生」をかたってウイグル人の指紋からDNAや血液のサンプル、瞳の虹彩まで生体認証データが採取されている。

当局は各地に「再教育センター」を作り、少数民族政策に批判的と見なされた人物を強制収容。中国語が話せないウイグル人に中国国歌ばかりか、習近平(シー・チンピン)国家主席の語録を暗唱させるなど、洗脳教育を行っている。収容者の人数は100万人に達した可能性がある、と欧米メディアは報じている。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

〔アングル〕日鉄の巨額CBが示す潮流、金利上昇と株

ワールド

ロシア、テレグラム創業者を捜査 「テロ支援」の疑い

ビジネス

日鉄、CB発行6000億円へ増額 日本企業で過去最

ワールド

イラン、中国製の超音速対艦ミサイル購入で合意間近
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 5
    ペットとの「別れの時」をどう見極めるべきか...獣医…
  • 6
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 7
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 8
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    武士はロマンで戦ったわけではない...命を懸けた「損…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story