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戦争、ジェンダー、環境、ポリコレ......「平成初期」に似てきた令和のゆくえ
同じように平成末からの諸現象の遠因となっているのは、2016年に起きたブレグジット(英国のEU離脱決定)とドナルド・トランプの米国大統領当選だろう。
門戸を広く移民に開き、異なる民族や文化を尊重して国際協調を進めるのが先進国だといった「リベラリズム」の発想が、その本場であるはずの英米で否定された。冷戦下のマルクス主義を代替する形で、ポスト冷戦期に体制批判的な言論をリードしてきた論調が、ここでもまた挫折を迎えたわけだ。
いままで信じてきた「ものの見方」自体が、実はまちがっていたのかもしれないという疑いが広がるとき、人はむしろ防衛的になる。「違う、これだけはいまも絶対に正しい!」と思い込めるような信仰の対象を、新たに見つけていかないと、自己の安定を保てない。
1989/2016年の後で生じた、②エコロジー、③フェミニズム、④ポリティカル・コレクトネスの流行には、いずれもそうした側面がある。やや支持層にズレを孕むが、湾岸戦争/ウクライナ戦争がともに惹起した①地政学のブームにも、重なる性格があろう。
なにより2020年からの全世界的な新型コロナウイルス禍では、多くの国が予防医学をそうした「絶対の正しさ」の基準に祀り上げ、ロックダウンやワクチン義務化など人権の制約を厭わない強権的な政策に傾斜した。
なにを信じるべきかが日々不明になってゆく世の中で、自然科学者の「託宣」に最後の正しさを求めたともいえるが、周知のとおりパンデミックの終息につれてむしろ、そうした判断自体への疑問(空振りや副作用の指摘)が口にされ始めている。
こうした「知の基盤」の全体が地すべりを起こす状況で、大学に代表される既存の学問はまったく無力だ。むしろ日本の諸大学は、法的な命令ではないにもかかわらず自粛の形でキャンパスを封鎖し、小学校~高校で再び対面授業が一般的になった後もリモート講義を継続して、勉学にふさわしい「場所」を提供する使命を自ら放棄した。
そんななか、「学問とはなにか」の意義が問われるスキャンダルが続いているのも、やはりかつての日本で見た風景である。
昭和の終わりにあたる⑤1988年には、人気の宗教学者だった中沢新一氏の採用人事否決をめぐる「東大中沢事件」が話題を呼んでいた。
2021年には同じくベストセラー学者の呉座勇一氏(日本中世史)が、ネットでの炎上を契機に内定済みの雇用契約を取り消されて裁判となり、社会の耳目を集めている。
大学の研究者よりも作家・評論家が中心だったが、⑥1991年には湾岸戦争に際して著名な文学者が連名で「反戦声明」を発表し、しかしその論理のナイーブさが後に批判されてゆく事態を招いた。
一方でSNSが普及しきった今日、ウクライナ戦争に関して「幼稚なツイート」を発した人文系の有識者が晒されて嘲笑を浴びる様子を眺めるのは、すっかり私たちの日常になっている。
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