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オーストラリアの診察室から

高尾康端|オーストラリア

コロナとメンタルヘルス

(ThitareeSarmkasat-ISTOCK)

10月10日からの週はクイーンズランド州のメンタルヘルスウィークでした。これはメンタルヘルスについて多くの人に知ってもらい、メンタルヘルスに対する偏見の撲滅を主な目的としています。メンタルヘルスにはうつ病、不安障害、双極性障害、薬物乱用など幅広い病気があります。オーストラリア在住者の約4人に一人、約420万人がなんらかのメンタルヘルスの問題を発症するというデータがあります。さらに今年はコロナウィルスの影響で多くの人がメンタルヘルスの問題を抱えています。

世界中の国々で問題になっていますが、オーストラリアでもコロナウィルスにより多くの人が仕事を失い、州境が封鎖されているため、他州に住んでいる家族に会えない人が多くいます。コロナ感染者が多いビクトリア州では、他州と比べるといまだに人の集まり等が厳しく制限されています。また仕事もリモートが増え、同居者以外の人と食事や遊びに行くことも制限されています。この制限は特に単身者に大きな影響を及ぼしています。友人や別に住む家族と会えない、仕事がない、暇を持て余している、ストレスを紛らわしたいなどの理由からアルコールの摂取量が増えている人も多くいます。また運動とメンタルヘルスは密接な関係にありますが、ロックダウン等の影響でジムが封鎖されたり、チームスポーツができない影響でストレスを抱えている人も多いようです。社会的孤立、アルコール依存、ストレスの増加、先の見えない不安などが互いに悪い方向に影響し多くの人のメンタルヘルスを悪化させています。

また大人に限らず、子供たちのメンタルヘルスの悪化も危惧されています。ビクトリア州では、長い間オンラインによるリモートラーニングが続いていました。そのため友達と会えない、作れないなどの問題も生じ、子供たちにうつ病や不安障害の症状が見られるケースも増加しました。コロナウィルスの感染を防ぐためのリモートラーニングですが、これは家庭にも大きな影響を与えています。両親共に仕事の場合は子供にリモートラーニングで勉強教えるのは大変難しい場合もあります。

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(sam thomas-ISTOCK)

オーストラリア政府の発表によるとオーストラリアの国民保険を使い臨床心理士を受診する人の数が例年に比べると増加しています。オーストラリア政府は先日、保険適応で臨床心理士を受診できる制限を通常の年10回から20回に増やすと発表しました。またテレヘルスによるテレビ電話等での臨床心理士の受診も続けられる方針にしました。 

ロックダウンや州境の封鎖によるメンタルヘルスの影響は政府関係者や医療関係者の間でも心配する声が多くロックダウンの規制緩和や州境を開ける議論が今も日々繰り返されています。


参考

https://www.qldmentalhealthweek.org.au/about/
https://www.health.gov.au/health-topics/mental-health
https://www1.racgp.org.au/newsgp/clinical/no-rise-in-suicide-but-gps-reminded-to-be-on-alert
https://www.abc.net.au/news/2020-10-14/coronavirus-children-mental-health-anxiety-survey/12702726
https://www.health.gov.au/news/health-alerts/novel-coronavirus-2019-ncov-health-alert/ongoing-support-during-coronavirus-covid-19/looking-after-your-mental-health-during-coronavirus-covid-19-restrictions

 

Profile

著者プロフィール
高尾康端

日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。

Twitter:@dryasutakao
Facebook:Dr Yasu Takao
ブログ:https://www.dryasutakao.com.au/blog

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