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ドイツの街角から

シュピッツナーゲル典子|ドイツ

ドイツの街角からパン屋が消える? エネルギー危機で経営難に頭を抱える店主の不安とは

©RainerSturm_pixelio.de

5月5日は「ドイツパンの日」ということで、今回はドイツのパン屋が直面している問題について紹介したい。

3000種類以上のパンが毎日パン屋で販売されているドイツはパン王国。朝食に焼きたてパンを、夕食にはパンにハムやチーズをはさんで食するカルテスエッセン(冷たい食事)を、と日常生活に欠かせない一品だ。早朝からパンを焼くパン職人の丹精込めたパンは、とても美味しい。

存続危機に直面するパン屋店主たち

だが2022年だけでも780店のパン屋が街角から消えた。特にエネルギー危機と原材料のコスト増が業界の重荷になり、店舗存続がますます難しくなっている。さらにパン職人と店舗の後継者不足も店じまいに拍車をかけている。

ドイツ製パン業中央協会の2022年企業経営統計によると、「22年末に登録されたパン屋は9,600店をわずかに上回り、前年より約3.6%減少した。(21年店舗数は9,965)」という。

10年前と比較してみると、2012年のパン屋店舗数は13,666店だったが、22年は9,607店に減少。パン製造業の従業員数では、12年は292,000人、22年は238,200人だった。

「物価高で顧客の買い控えもあり、他方で製パン業界との競争が激しいため、コスト増を価格に転嫁することが難しい」と同協会は現状を明かしている。

さらに近年は、工業的に生産されたパン、クロワッサンやロールケーキを焼くベイクショップやスーパーマーケット、ディスカウントショップ内で販売するチェーン店が急増した。

安価なパンを入手できるのは消費者にとってはありがたい一方で、パン製造業界に問題を引き起こしている。大量生産のパンの味はさておいて、価格を重視する消費者は安価なパンを入手する傾向が増えている。パン職人やマイスターの製造するパンは低価格についていけない。

ドイツの1世帯あたりのパン・ベーカリー製品の年間消費量は56.0kg弱。2022年の売上高は162億7000万ユーロ。前年比9.4%の増加だった。

だが、同協会の副最高責任者であるフリーデマン・ベルク氏は、「売上高の増加は、主に高インフレによる物価上昇に起因している。ほとんどのパン屋経営者はエネルギーや原材料費の膨大な上昇を製品価格に十分に転嫁することができないまま、経営難に頭を悩ませている」と述べる。

十分な数の若者を確保することも難しくなってきている。この分野の実習生の数は、2014年から2021年にかけて、約20,500人から約12,200人へとほぼ半減した。

「ドイツのパン文化」を守り続ける職人たち

Profile

著者プロフィール
シュピッツナーゲル典子

ドイツ在住。国際ジャーナリスト協会会員。執筆テーマはビジネス、社会問題、医療、書籍業界、観光など。市場調査やコーディネートガイドとしても活動中。欧州住まいは人生の半分以上になった。夫の海外派遣で4年間家族と滞在したチェコ・プラハでは、コンサートとオベラに明け暮れた。長年ドイツ社会にどっぷり浸かっているためか、ドイツ人の視点で日本を観察しがち。一市民としての目線で見える日常をお伝えします。

Twitter: @spnoriko

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