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日本人コーヒー生産者が語るコロンビア

松尾彩香|コロンビア

コロンビアの先住民エンベラチャミ族に会いに行ってみた

筆者撮影

4月14日から17日の間、コロンビアではセマナサンタ(イースター)の連休がありました。セマナサンタは十字架にかけられて亡くなったイエス・キリストが3日後に復活したことを祝うお祭りで、コロンビアに限らずカトリック信仰国においてはとても大切な行事と考えられています。特に祝日である木曜日と金曜日は「聖木曜日」「聖金曜日」と言われ、この日に働くことは罪(pecado)と考える人も多くます。収穫期で忙しいコーヒー農家でさえもこの日は仕事を休んでキリストの復活をお祝いするのです。

コロンビアではセマナサンタの間、家族で集まってゆっくり過ごしたり連休を利用して旅行に出かけたりするのが一般的な過ごし方の様ですが、私はこのセマナサンタの連休中にコロンビアの先住民保護地区を訪れました。今回訪問を受け入れてくれたジョバナさんが忙しい中お話を聞かせてくれたので、彼女の話を交えながら彼らの生活を紹介したいと思います。

   

コロンビアと先住民

16世紀、新大陸を発見したスペイン人が南米大陸に住む多くの先住民たちを虐殺し植民地化していきました。宗教、建築、言語などが次々にスペインと統一されていく中、生き残った先住民が今もなお祖先から受け継いだ伝統を継承しながら生活しています。コロンビアにおいては人口の4,4%が先住民(2018年時点)と言われており、彼らは独立した政治体制の中でコロンビアとは違う独自の法律のもと生活を送っています。先住民と聞くと「人里離れたジャングルの中で槍を使って狩りをしながら暮らしている人々」と言った様なイメージを持つ方もいるかもしれませんが、コロンビアの農民とほとんど変わりのない様な生活を送っている部族もたくさんいますし、学業や仕事のために保護地区を離れ都会で生活している先住民もいたりと、先住民の存在はコロンビアの一部であり先住民ではないコロンビア人にとっても身近な存在でもあります。

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©️iStock - Joesboy  

 

エンベラチャミ族

今回訪問したのは国内に115もある部族の中の一つ「エンベラチャミ族」。コロンビアに広く分布するエンベラチャミ族は私が住むアンティオキア県内では5箇所の保護地区に分かれて暮らしていますが、訪問したのはカルマタルアと呼ばれる保護地区です。コロンビアの第二の都市メデジンの北ターミナルでバスに乗り、山道を走ること約4時間。エンベラチャミ族が住むカルマタルアに到着しました。

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酔い止めは必須(筆者撮影)

保護地区は国道に面しており、入り口にはエンベラチャミ族の工芸品が売っているお店があります。この国道の先にはハルディンと呼ばれる有名な観光地ありますが、そのハルディンに向かう観光客たちがこのお店に立ち寄って先住民から直接工芸品を購入するのだそうです。

IMG_6736.jpg右側に写っているのが工芸品ショップ(筆者撮影)

舗装された道路を登っていくとそこはもう先住民たちの村。カルマタルアには約1800人の先住民が生活しており、彼らは主に農産物と工芸品で生計を立てています。またこのエリアはコーヒーの名産地でもあるため、先住民地区の外にあるコーヒー農園でピッカーとして働いている先住民も多くいます。

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奥に見える山は全てコーヒー畑になっています(筆者撮影)

保護地区の中心地には教会があります。エンベラチャミ族は先祖代々伝わる自然崇拝の他にもキリスト教を信仰しており、到着した時もセマナサンタで一般的に行われるプロセシオンと呼ばれる山車を担いで行進する行事が行われている最中でした。

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ミサは夜遅くまで続きました(筆者撮影)

彼らが先祖代々受け継いできた自然崇拝ではハイバナと呼ばれる人物がコミュニティのリーダーとなります。ハイバナは薬草や自然に宿る魂に関して豊富な知識をもっており、儀式などを行う際にはこのハイバナが中心となって行われるのです。キリスト教が浸透しているエンベラチャミ族ですが、この自然崇拝は彼らの大切なアイデンティの一部。テクノロジーが発達したこの時代にこう言った古くから伝わる宗教の信仰心は薄れていかないかと思いましたが、ジョバナさん曰くハイバナを目指す若者は年々増えているのだそうです。

IMG_6739.jpg筆者撮影

私たちを受け入れてくれた家は大家族。子供もたくさんいるとても賑やかな家庭でした。しかし彼らの間で話されている言葉は全てエンベラチャミ語。小さな子供でさえスペイン語とエンベラチャミ語を自在に操り、私たちと会話をするときはスペイン語、家族と話すときはエンベラチャミ語と言葉を使い分けていました。コミュニティの外とも関りを持つエンベラチャミ族にとってスペイン語は必要不可欠。スペイン語ばかりでも生活に不自由はしませんが、それではエンベラチャミ語を忘れてしまいます。彼らの伝統を後世に残していくため、家ではエンベラチャミ語を話す様にしてバイリンガル教育を徹底しているのです。カルマタルアの教会の向かいにある学校ではスペイン語の教育を行い、家庭ではエンベラチャミ語を教える。こうして代々エンベラチャミ族のアイデンティティは今日まで受け継がれてきました。

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先住民保護地区内にある学校(筆者撮影)

ジョバナさんに、少しセンシティブなテーマについても話を聞かせてもらいました。コロンビアの先住民差別についてです。コロンビアでは残念なことに先住民を「インディオ」という差別言葉で呼び、先住民は劣っていると差別をする人は少なくありません。ジョバナさんはこれに対して「彼らは表面しか見ていないのです。あいつらは野蛮で怠け者だ、金ばっかり欲しがっている、というイメージで私たちをジャッジし、そこから先を知ろうとしないのです。」と話してくれました。この様なネガティブなレッテルを貼られた先住民の中には先住民であることを恥じだと感じてしまい、伝統を受け継ごうとしない人もいるのだそうです。

   

エンベラチャミ語でラップ

今回訪問したカルマタルアではありませんが、同県のヴァルパライソにある保護地区ではエンベラチャミ語保全のために立ち上がった二人の若い先住民ラッパーがいます。

彼らはLinaje Originalesというデュオラッパー。2016年に名曲「コンドルは飛んでいく」をサンプリングした全エンベラチャミ語のラップが話題になり様々なメディアで取り上げられました。このラップは「俺たちの文化は守っていかなきゃいけない。母なる大地、動物も。使っている水や心に持っている昔から受け継がれた魂も。」という言葉から始まります。差別を恐れず先住民であるという事に誇りを持ち新しいことにチャレンジする2人に、彼らの動画のコメント欄には多くのコロンビア人から「すごい!」「あなた達を誇りに思います!」とポジティブなコメントが寄せられています。

 

今回はエンベラチャミ族と実際に触れ合い彼らの文化や伝統などをみてきましたが、コロンビアには他に114もの部族があります。それぞれに異なるストーリーや受け継いできた教えがあるのだと思うと、コロンビアの多様性は本当に果てしないですし「コロンビアを知っている」と言える日は一生来ないのだろうな、としみじみ思ってしまう筆者なのでした。

 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住

ブログ: http://campesinita.com

Twitter: @maon_maon_maon

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