
England Swings!
アガサ・クリスティが愛したデヴォンの別荘、グリーンウェイ後編 クリスティの暮らしと殺人の舞台になったあの場所たち
けれどグリーンウェイ・ハウスの庭の目玉は、なんといってもボートハウスだった。『死者のあやまち』に重要な場所として出てくる、あれだ。後で述べるデヴィッド・スーシェ版ポワロのドラマが撮影されたことで、人気が上がったようだ。入場した時点で係員さんが、その日のボートハウスの公開時間をわざわざ教えてくれる。
グリーンハウスに着く前に川からボートハウスを見た感じでは、小さなものに見えたのだけれど、実際には思った以上に大きな建物だった。入るとすぐふつうの部屋があり、暖房も備えられている。暖炉の前の椅子に座って、ドラマ撮影の時の資料を眺めたりしてくつろぐ人もいた。
バルコニーに出ると目の前に緑色のダート川がせまり、船がゆっくり行き交うのがよく見えた。あの作品を知らなければ、気持ちのよい、平和なボートハウスだ。この下には、川の水を利用したプールもあるらしい(非公開)。双眼鏡で川を眺めていたボランティアのおばさまが、「あの岩の辺りを見て! アザラシが顔を出してますよ!」と教えてくれた。
ダート川から見たボートハウス。開放されているのはバルコニーのある上の階のみ。周りの緑はすべてグリーンウェイの庭です。山みたいでしょ。筆者撮影
わたしのように意気込んで訪れるクリスティ好きには、グリーンウェイの売店は少し物足りなく感じるかもしれない。屋敷やボートハウスが描かれたグッズやクリスティの本が置かれてはいるものの、ナショナルトラストが管理する他の場所とあまり変わらないからだ。ロザリンドは、グリーンウェイを「クリスティのテーマパーク」にしたくなかったので、それを受けたナショナルトラストがこのように配慮したそうだ。
ただし、ここでクリスティの本を買うと「グリーンウェイ」というスタンプを押してもらうことができ、これがじわじわとファン心をくすぐる。2年前は知らなかったけれど、今回、レジで押してもらっている人を見かけて知り、わたしももちろん買いました!
5時間かけて屋敷と庭を歩き回り、満足と一抹の寂しさとともに帰りのフェリーに乗り込むと、夫が「気が済んだ? もうトーキーの辺りはじゅうぶん見たね」と話しかけてきた。じゅうぶん見た? とんでもない! まだトーキー郊外のクリスティの生家跡にも、ミス・マープルが住むセント・メアリミード村のモデル(のひとつ)と言われる近くのコッキントン村にも、後で知ったトーキーのアガサ・クリスティ・ショップにも行っていない。それに毎年9月にトーキーで開かれるクリスティ・フェスティバルにも憧れている。電車やバスを乗り継いで行けることがわかったので、これからは1人でも行きますよ!
興味はあるけどデヴォンは遠いよという方には、デヴィッド・スーシェがポワロを演じたドラマ「名探偵ポワロ」シリーズの『死者のあやまち』(第13シーズン第3話)がおすすめ(日本でも第68話としてNHKなどで放映)。ドラマのセットとして装飾されているものの、主にこのグリーンウェイで撮影されているので、邸内も砲台公園も、もちろんボートハウスの内部も見ることができます。
この記事をアップする直前にクリスティの135回目の誕生日があり、2026年秋から大英図書館でクリスティの大規模な展示Agatha Christieが行われることが発表されました。今から楽しみです!

- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile