ローマの政治シーンに新たな動きが生じさせた。
2027年の市長選挙を前に、ムスリム住民による協会「ムーロ2027 - ムスリマーニ・ペル・ローマ2027」が発足した。この協会は政党や運動体ではなく、議論の場として位置づけられる。目的はムスリムを政治の主体とする点にある。ニューヨークでムスリム初の市長に選出されたゾーラン・マムダニ氏の事例を参考に、ローマの政治議論に新たな視点を加えることになった。

中心人物はフランチェスコ・ティエーリ氏である。イタリア人エンジニアでイスラムに改宗したティエーリ氏は、2021年の市政選挙でデモス党からV区の候補として出馬した経験を持つ。協会は政党ではないと強調し、政治の二極化を防ぐためのテーマ提供を意図する。
ローマのムスリム人口は約12万人で、そのうち4万人がイタリア国籍を保有する実情である。コロッセオの影に広がる多文化の街並みで、モスクのミナレットが朝陽を浴びる情景は、こうした数字を現実のものとして浮き彫りにした。

協会の焦点は社会問題への対応にある。アルコール、薬物、ギャンブル依存を社会の災厄と位置づけ、支援策を提案する。イタリア全国の薬物依存者は2023年時点で約40万人に上り、ローマだけでも数万人が苦しむ状況である。また、ローマ市規約に定められた「追加カウンシルメンバー」制度の復活を求める。この制度は外国人在住者の市政参加を可能とするもので、アレマンノ政権時代まで運用されていたが、現在は停止中である。パオロ・チアーニ氏の関連動議は失敗に終わった経緯だ。ティベリ川の流れが静かに街を分かつように、この制度の不在は移民の声を市政から遠ざけている。

この動きに対し、欧州議会議員のアンナ・マリア・チシント氏（同盟党）は批判を表明した。ムスリム政党のアイデアは危険であり、憲法をシャリーアで置き換える意図があると主張し、禁止と解散を求める。しかし、協会は正式な組織体ではないため、こうした反応は議論の段階にとどまる。イタリアのムスリム人口は全国で200万人を超え、ローマはその中心地である。2022年の国勢調査では、ムスリム系住民の出生率がイタリア平均の1.24を上回る1.8を記録し、人口構造の変化を進行させた。

イタリアの移民政策は厳格化が進む。1990年代以降のEU拡大でムスリム移民が増加し、2001年の9.11事件後にはイスラモフォビアが強まった。ベルルスコーニ政権下で移民法が強化され、サルビーニ氏のレガ党は移民船阻止を公約に掲げた。2020年代に入り、労働力不足から移民受け入れの必要性が高まる一方、右派の反移民感情は根強い。2024年の世論調査では、移民反対派が48%を占め、支持政党別ではレガ党支持者の78%が厳格政策を求めてきた。トラステヴェレの路地で移民の家族が営むレストランが観光客で賑わう一方、こうした数字は社会の亀裂を示唆していた。

ローマは多文化都市である。観光と歴史の街として、移民コミュニティが経済を支える。ムスリム住民は教育、医療、福祉の現場で貢献するが、政治参加は限定的だ。ティエーリ氏の取り組みは、こうした壁を打破する試みである。協会はイスラム的值観に基づく共通善の追求を掲げるが、世俗主義を尊重する姿勢を示す。2023年のローマ市予算では、移民統合プログラムに割り当てられた資金は総額の0.8%に過ぎず、芳しくない実態だ。

2027年の市長選では、環境やジェンダー問題とともに移民政策が争点となる見込みである。現職のロベルト・グアルティエリ氏（左派連合）と右派候補の対決が予想される中、ムーロ2027は第三の視点を提供する可能性が高い。成功すれば、イタリアのムスリム政治参加のモデルとなる。欧州全体でムスリム議員が増加する中、イタリアの対応が注目される。2024年の欧州議会選挙では、ムスリム系候補がイタリアから2名当選し、存在感を増した。

この協会の発足は、民主主義の包括性を試す機会である。対立を招くリスクはあるが、対話を通じて社会統合が進む可能性もあった。ローマの政治は多様な声の交錯する場として、変化を続けている。カンピドリオの丘から見下ろす街並みは、古代の遺跡と現代の多文化が融合する情景だ。ムスリム住民の声が市政に届く日は、遠くないのかもしれない。こうした動きは、イタリア社会の成熟度を問うものに他ならない。どこに真の統合の鍵があるのか？