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ラッシャー貴子|イギリス

アガサ・クリスティが愛したデヴォンの別荘、グリーンウェイ後編 クリスティの暮らしと殺人の舞台になったあの場所たち

ナショナルトラストが管理する場所ではよくあるように、ここでも熱心なボランティアの人たちが行く先々で丁寧に説明をしてくれた。寝室にはベッド脇にキャンプ用の小さなベッドがあったので不思議に思っていると、ボランティアのおじさまが、夫のマックスはそっちで寝ていたんだよ、と教えてくれた。中東で発掘をする考古学者だった2人目の夫のマックスは、好んでこれを使ったそうだ(さすが、野営に慣れている!)。邸内では、発掘先の写真や中東から持ち帰った家具も見ることができる。

窓際に作り付けのデスクがあり、タイプライターが置かれていたので、思わず前のめりになって、ここで執筆したんですか? と聞いたら、「ここでは休暇中だったから、手紙を書くとか、ちょっとした修正しかしなかったはず」と教えてくれた。なーんだ、そうなのか。でも、ここにクリスティが座ったというだけでわくわくする。

newsweekjp_20250916111231.jpegファックス・ルームという細長い部屋の窓辺のデスク。ファックスが置かれたのでこの名前がついた。机の上のタイプライターも実は夫マックスのものだそう。筆者撮影

そしていよいよ、2年前に歩けなかった広い庭に出て、今度こそ思い残しのないようにと張り切った。屋敷の周りは野菜やくだもの栽培の温室、夏の花が咲き乱れていた花壇、シダの庭、クロッケー場などがあり、ナショナルトラストが子ども向けの遊びも用意している。誰でもプレイできるテニスコートでは、若い親子が歓声をあげて走り回っていた。

その辺りは土地がなだらかにならされているけれど、屋敷を離れてダート川に向かってだらだらと坂を下り始めると、すぐに起伏の激しいデヴォンの水際の地形が現れた。つまり険しい坂道が多い。しかも下ったかと思うと、すぐまた上ることになって、まるで山歩きだ。深い緑に包まれるのはとても気持ちがよかったけれど、大柄なおじさまたちは、はあはあと息をあげていた。

newsweekjp_20250916111451.jpegグリーンウェイの庭を歩く道。この道自体はなだらかな下りだけれど、右に向かってぐっと落ちている傾斜から、道の険しさをご想像ください。自然の地形を活かした庭づくりはお見事。筆者撮影

そんな自然の中を歩くと、人の手を入れたものが散在している。かわいらしい鳥の像や仏像(日本の観音像と説明あり)が飾られた泉、草花が咲く花壇や椿園(これも『死者のあやまち』に登場しますね)などに出会い、ほぼ山歩きと言える広い庭のアクセントになっていた。ダート川を見晴らす場所には、『五匹の子豚』に名前が出てくる、砲台公園もあった。なぜここに大砲が? と思ったら、18世紀の終わりにナポレオンの侵攻に備えて作られたのだそうだ。この場所に最初に家が建てられたのは16世紀、今の家は18世紀に建てられた。グリーンウェイ自体、歴史ある土地だ。

newsweekjp_20250916111644.jpeg庭内の砲台公園。物騒な理由で作られたとはいえ、そして『五匹の子豚』ではあんなことが起きたとはいえ、今はダート川を見晴らす静かな場所だ。筆者撮影

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著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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