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トルコから贈る千夜一夜物語

木村菜穂子|トルコ

言語を学ぶときに大切なのは「語学力」より「コミュニケーション力」

コミュニケーション力を伸ばすことに着眼した学習方法とは?

中東に移動してから、いろいろな国の人たちがアラビア語とトルコ語を学ぼうとするのを見てきました。とりわけアラビア語に関しては、自身も初心者を教える機会があったこともあり、様々な人種のアラビア語学習者をたくさん観察してきました。そして語学をぐんぐん吸収する人とそうでない人には共通点が幾つかあることに気づきました。カギとなるのは、コミュニケーション力を伸ばすことに着眼した学習方法かと思います。ここでその方法を幾つか挙げたいと思います。

1. 人の話をよく聞く


簡単なようでいて、実は難しい。意識的にする必要があると思います。語学学習者で発音が良くならない人、なかなか話せるようにならない人は、ネイティブの話をよく聞いていない可能性があります。もちろんこれは、ネイティブに囲まれているという理想的な環境にいる場合の人のことです。ヨルダンではアラビア語、トルコではトルコ語、そんな環境にいながら全然伸びない・話せないまま月日が過ぎるという言語学習者がいます。そういう人の特徴として、話についていけないとき思考が別のほうへ行っていることが多いように感じます。体はその場にありますが、頭では全く別のことを考えています。

五感を使って、人の話をよく聞くことはとても大切だと思います。そうすることで、ネイティブならではの使い方を知ることができます。自然なあいづちの打ち方や表情なども観察できます。こうしたことは文法書には書かれていません。ネイティブが話しているときは、学ぶ絶好の機会。無料のオンラインレッスンのようなものです。五感を使って聞くことで、ぐんぐんと吸収できます。実際、赤ちゃんはよく聞きよく観察することで言語を吸収していきます。

iStock-1345056056.jpgiStock - 一心に聞く赤ちゃん

2.学んでいる言語のリズムを理解する

どの言語にも特有のリズムがあります。英語のなまりで日本語を話している外国人の日本語を誰でも聞かれたことがあるかと思います。日本語のリズムではなく英語のリズムのままなので、とても聞きにくい。簡単な例を挙げますと、私の名前は「ナオコ」なのですが、アメリカやイギリスなどいわゆる英語圏の人にかかると「ネヨコ」となります。しかも真ん中の「ヨ」がやたら強調されます。それはそれで問題はありませんが、新しい言語を学ぶときにその言語のリズムをまず理解すると、ネイティブらしく話せるようになります。1 つ目で触れた「よく聞くこと」と関係していますが、赤ちゃんは聞くことでまず言語のリズムを理解します。

3.耳に入ってきた音をそのまま真似る

これも赤ちゃんがする方法です。意味はよく分かっていなくても周りの人が出す音に似たサウンド (あるいは 2 番目で触れたリズム) を発します。そのサウンドを聞いた人たちの反応を見たり、あるいはそのサウンドを正されたりして、やがて正確な発音になります。

言語学習者で話すことをかたくなに拒む人がいます。シャイで恥ずかしさが先に立つような場合は特にそう。「もうちょっと話せるようになってから話す」なんていう人もいますが、語学を学習しているときは自分を笑う精神が必要だと思います。間違えないようにしようと思うのではなく、間違えて笑いでも取ろうというお笑い芸人にも似た精神が必要かもしれません。どのみちキチンとは話せないのですから、それをネタにした方が自分も周りも気楽です。

少し余談になりますが、アクティブ・リスニングという聞き方があります。語学の学習とは直接関係がないのですが、コミュニケーション力を伸ばす聞き方なので学習法に活用できると思います。アクティブ・リスニングとは、話している人の心情をすべて受け入れる姿勢を示すことで、その方法の 1 つとして「オウム返し」があります。相手が言ったことをそのまま繰り返すこと。例えば「私辛かったんです」といわれたときに「辛かったんだね」と返します。

これを語学学習に当てはめて、ネイティブが使った単語をそのまま繰り返します。意味は分からずとも...です。アクティブ・リスニングはもともと相手に話すことを促すので、私と話しているネイティブはさらに饒舌になります。こうして、意味は分からなくても色々な単語を耳にしオウム返しすることで、脳に蓄積されていきます。今度同じ単語やフレーズに出くわした時に、聞き覚えがあることが分かります。こうしたことの繰り返しで、語学力が伸びていきます。

4.分かることに集中する (分からなくてもパニックにならない)

1 つの文で 1 つでも分からない単語があるとパニックになる人がいます。でも 1 つの文で 1 つであったとしても分かることに集中すると、話されている内容が何となくでも理解できると思います。語学学習者は翻訳者や通訳者ではないのですから、100% 分かろうとするのはハードルが高すぎます。全体として何が話されているかということが分かれば会話は続きます。会話が続けば、自信につながります。

赤ちゃんや幼児は単語のすべてを理解できるわけではないでしょうが、大まかな意味を理解しますよね。あるいは、こうかなと思ってとりあえず反応します。それが合っていることもあるし、間違っていることもある。でも反応すれば、相手からの反応も返ってきます。

iStock-1206801163.jpgiStock - 赤ちゃんは分かることだけに集中している

5.「ネイティブ・センス」を磨く

上の 1 から 4 を行うことで、「ネイティブ・センス」が磨かれます。このネイティブ・センスとは、母国語に対して誰もが持っている感覚のことです。母国語では、誰もが感覚的に正しい文法・語順・語彙を選んでいます。母国語ほど文法の説明が難しいのではないでしょうか。これは母国語の場合、「ええと、文法的にはこれが正しくて...」などと考えずに話している、つまり感覚的に語学を習得しているからです。

机に向かってガリガリと勉強する方法では、このネイティブ・センスは養われません。そのため、何年経っても応用が利きません。反対に、第 2 言語に対するネイティブ・センスを培った人は、センス (感覚) で乗り切ります。理論では説明できないとしても、自分の中にあるセンス (感覚) が「こうだ!!」ととっさに反応するのです。正しく養われたネイティブ・センスは正しく働きます。例えばアラビア語には、単数形・双数形 (2つのものを指すときの言い方)、複数形という 3 つのパターンがあります。この変化には幾つかのルールがありますが、例外も多々あります。例外がある時に、ネイティブセンスが養われていると、聞いたことがない単語なのに感覚で正しいパターンを選ぶことができます。

文法は勉強すべきかすべきでないか

最初の数か月 (人によっては数年) は、ガリガリ勉強型のほうが効果的に思えるかもしれません。あるいは、どの学習法でも差がないように感じるかもしれません。さらには、赤ちゃんのように学習する方法の場合、文法の間違いが多いですし、幼稚なことしか言えないように思えるかもしれません。

でも長期的にみると、ガリガリ勉強型は伸びに限界があるように感じます。コミュニケーション力を駆使した学習法 (それによりネイティブセンスが培われた学習法) の場合、伸び始めるとあとは無尽蔵にぐんぐん伸びます。文法の知識に縛られない会話はとても自然です。発音も良いです。でも初期にガリガリ勉強型をしてきた人は、いつまでも苦戦します。アラビア語の場合は特にそうです。5 年 6 年経っても通じないアラビア語を話している人をよく見かけます。

iStock-526505715.jpgiStock - 赤ちゃんと本

なお最後に付け加えておきますが、文法を勉強する必要がないといっているわけではありません。いくら赤ちゃんのように学ぶといっても、私たちは本当の赤ちゃんではありません。赤ちゃんにはできなくて大人にはできること...それは、読み書きです。ですから、耳から入ってきた単語やフレーズを書き留めて、あとから調べることができます。こうして赤ちゃんが言語を学ぶメソッドを取り入れつつも、赤ちゃんよりずっと早いスピードで学習できます。実際、アラビア語 (Levantine Arabic) も難なく習得し、半年ほどでかなりスムーズにコミュニケーションが取れるようになる人をたくさん見てきました。その秘訣は、今日の記事で書いた通りコミュニケーション力に重きを置いた学習法なのだと思います。

コミュニケーション力こそが言語上達のカギ‼ こんな筆者なりの理論で、しばらくはトルコ語に取り組む日々です。

 

Profile

著者プロフィール
木村菜穂子

中東在住歴13年目のツアーコンサルタント/コーディネーター。ヨルダン・レバノンに7年間、ドイツに1年半滞在した後、現在はトルコ在住4年目。メインはシリア難民に関わる活動で、中東で習得したアラビア語(Levantine Arabic)を駆使しながらトルコに住むシリア難民と関わる日々。

公式HP:https://picturesque-jordan.com

ブログ:月の砂漠―ヨルダンからA Wanderer in Wonderland-大和撫子の中東放浪記

Eメール:naoko_kimura[at]picturesque-jordan.com

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