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平野美紀|オーストラリア

【新型コロナ】メルボルンの事例にみる感染拡大しやすい都市(2)

メルボルンの観光スポットのひとつでもあるストリート・アートは街のあちこちに点在する(2020年2月筆者撮影)

前回のコラムでは「都市構造」の観点から、主にメルボルンだけで感染拡大した理由を考えてみたが、今回は、日本でもよく言われる『県民性』のような部分にも着目して、ビクトリア州政府が行った対策とそこに暮らす住民=州民/市民の反応などを見ていきたいと思う。

オーストラリアは移民国家なのに『県(州)民性』なんてあるの?と思う人もいるかもしれないが、都市を構成する民族的な集団の規模も異なるため、どうしても大きい集団となっている国の国民性のようなものがでているところはある。また、気候的なことも手伝って、街によって地域色が色濃く出ていたりするため、違う街を訪れるとだいぶ雰囲気が異なると感じる人も多いはずだ。

なかでも、シドニーとメルボルンは、国内第一、第二の都市であることから、日本の東京 vs 大阪ように、常に比較され、お互い競争心のようなものを抱いている。どちらも「うちが一番!」と譲らないところなど、まるで東京 vs 大阪の因縁の争いを彷彿とさせ、人々のライフスタイルや気質も違い、まったく異なる街の顔がある。

エクササイズのための外出問題

ビクトリア州での急速な感染拡大で、対策的に最も気になったのは、新型コロナ検査で陽性=感染確定となった軽症者が自宅で自己隔離(自宅療養)となった際、メルボルンのあるビクトリア州の規則(ルール)では、「野外でのエクササイズに関する規制がとくになく、感染確定者でも屋外でのエクササイズは認められていた」ということだ。

こうしたルール上、ビクトリア州では感染者が"エクササイズ"と称すれば「外出OK」となっていたため、保健当局が自己隔離中の感染者がきちんと自宅療養しているか確認するために訪問した際、4人に1人が外出中であったことが大きな問題となった。(参照

一方、シドニーのあるニューサウスウェールズ州では、検査を受けたら結果が出るまでは「外出不可」であり、感染確定者は、引き続き外出不可なのはもちろん、自宅敷地内から出ずに庭や部屋の中でエクササイズをするよう指導。該当者は、基本的に当局の指示に従っていたので、ビクトリア州のこのルールを知った時は、腰を抜かしそうになるほど驚いた。

『感染者の移動は禁物』という感染症対策の基本に逆らうような、ビクトリア州のこのやり方では、感染拡大に繋がってしまう恐れがある。それは、感染者がエクササイズと称して外出した先の公園のベンチや遊具を触ってウイルスを置いてきてしまい、次にそこに座ったり触ったりした他の人がウイルスを拾って感染、さらに別の場所へ持ち出して広げてしまうことになるからだ。

この感染症パンデミック対策から見たら考えられないような事態は、後にビクトリア州2度目のロックダウンにおける段階的な規制強化の中で是正された。

州政府の対策の違いとはいえ、この決定的な違いは、感染拡大を左右する大きな分かれ道だったかもしれない。もっとも、「オーストラリアは冬に本当に感染拡大したのか?」で触れたように、各州が異なる対策で新型コロナ感染パンデミックに臨んでいるオーストラリアでは、州政府の対策の違いが大きく左右することは間違いない。しかし、ビクトリア州政府の初期の対応は、どちらかといえば個人の判断に任せてしまう部分が垣間見え、他州と比べて少々緩いものであったように思う。

二大都市の市民意識の違い

(これは、見解が分かれそうなところではあるのだけれど・・・)新型コロナパンデミック下における人々の行動を見ていると、興味深い"違い"があった。

シドニーの人たちは概ね、よく言えば"用心深く"、悪く言えば"ビビリ"であるようで、シドニー近郊で感染者が出た!となると、該当地区周辺の住民がこぞって検査に行き、検査を待つ人の長い行列ができることが多かった。(参照

一方、メルボルンは、シドニーのようにすぐに検査に行く人とそうでない人に二分されていたものの、後者の中には陰謀論を信じて検査を拒否する人が相次ぎ、問題となった。(参照

クラスターが発生しているために検査をするよう当局が呼びかけても、1万人以上が拒否する事態となり、2度目のロックダウン時にはルール違反者が続出。多くの逮捕者がでたことが世界的に報道され、話題となったことを覚えている人も多いことだろう。(参照

陰謀論者は他州にももちろんいるし、パンデミック下でBLM(Black Lives Matter)をはじめとするデモも行われたが、メルボルン周辺ではロックダウンへの不満が高まって、過激化してしまったところは否めない。

市民に根付く反骨精神

melbourne_art.jpgメルボルンでは年間を通じて数多くのアート・イベントが開かれる(2020年2月筆者撮影)

メルボルンという街は、市民が自らの街を「cultural(文化的)」と評し、創作活動に携わる人も多い。州政府が芸術特区として定める地区があり、街中にはパブリック・アートが点在し、年間を通じて数々の芸術イベントが開かれ、世界有数の芸術の街としても知られている。(参照

芸術家らしく独創性を重んじる気風に満ち、既存社会への反骨精神のようなものが根付いていて、独立心も強い。そんな気風が影響しているせいか、メルボルンを中心としたビクトリア州における従業員20人未満の小規模事業主の数は604,379と、最大都市シドニーのあるニューサウスウェールズ州の約354,870を大きく引き離し、国内で断トツに多い。(参照1, 参照2

こうした自由と個性を大事するメルボルン気質のようなものが、人々の行動に出てしまったところはないだろうか...?と、パンデミック下でのメルボルンでの混乱を見て、ふと思った。

前回と今回のコラムの2回に渡って、都市構造とそこに暮らす人々という異なる観点から見てきたが、人間が拡大させてしまう感染症のパンデミックでは、普段あまり気に留めていないような些細なことでも、特定の都市部で急速に感染拡大するファクターになりえるのではないかと、ちょっと気になっているところである。※あくまでも個人的な見解であることをご了承ください。(第1回はこちら

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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