コラム

「汚職の祭典」オリンピックの透明性を高める改革の必要性──今後の国際イベント実施への影響

2023年03月27日(月)16時26分

国や東京都は被害者であるかのように振る舞うが......

同事件は組織委員会元次長がIOCからの強烈なプレッシャーの中で全ての競技大会の運営を確実に実施することを重視し、その発注先として電通を事実上指定できるように入札などを落札者である電通と調整したというものだ。その際、各競技大会の入札が事前に応札希望会社リストが作成されていた上に、実際にはその多くが一社入札の形式で行われたものとされている。ただ、報道されているので、さらに疑問なのが、この作業自体は、当初は電通に随意契約が前提で依頼している中で、最終的に競合にすることになったと報道されていながら、これが犯罪と単純に断罪されていることである。

また、更に違和感があるのが、本事件発覚後、国や東京都はまるで被害者であるかのように振る舞い、電通を含めた関係各社への指名停止を発表していることだ。しかし、真の問題は、これら国や東京都などの発注主の能力の低さにこそあると言えよう。彼らはこの電通を含めた関係各社発注し、管理する立場にあったわけで、むしろ同罪であり、その罪はさらに重いと筆者は考える。今回の検察の捜査はそうした中で非常に物足りないものであったと言えよう。

大会運営を事実上丸投げする形を取ることに

本質的なこととして今回の事件の遠因は、国や東京都からの出向者により構成されるオリンピック委員会が極めて甘い予算見積に基づく開催を決定したことにある。日本政府はイベント運営ノウハウなどを持ち合わせていなかったにも関わらず、誘致のリスクを低く見せるために、招致当初は極めて過小な予算でイベントが実現できるかのように振舞っていた。

しかし、実際には国や東京都の能力では現実の業務は運営できず、電通から組織委員会に大量の出向者を受け入れて、その大会運営を事実上丸投げする形を取ることになった。その体制に鑑み、電通が組織委員会そのものを食い物にして予算が増加したという報道が多いが、筆者はそのような見解のみに立つ者ではない。電通に責任を押し付けるだけなのは、極めて不公平であり、本当の悪者に目をつぶっているだけでしかない。

実際、当初の大会費用をあまりに過少に見積もっていたツケを受けて、2017年には電通自身もマーケティング専任代理店予算を50億円削減されている。そして、問題となった一社競争入札についても、電通提案の確かな実績を持つ委託先に対する随意契約&値切り交渉を前提としたものが、やはり組織員会の意向で契約直前に競争入札方式に変更されたものだ。現実の問題として、いきなり調整内容を変更することなど困難であるし、変更前の随契方式のままだと談合事件としても成立しなかった可能性がある。

また、当初予算が完全にデタラメであったことから、今回の実際の発注金額が安いか高いかは実は誰にもわからない。したがって、コスト面が妥当であったか否かは議論が残るとしても、オリンピックの各種イベントに大過が無かったことにも鑑み、少なくとも電通担当者らはスポーツマネジメントの知見を活かし、イベントを成功させたという点では真面目に取り組んでいたということも出来よう。(コスト面の妥当性は国会の場などで第三者による算出がしっかりと行われるべきだ。)

特定の会社や個人の問題として片づけるべきではない

日本政府には国際的な大規模イベントを運営するノウハウは一切ないため、前述の口利き問題と後者の運営問題は性質を分けて考えなければ、今後日本で大規模なイベントには著しい支障が生じることになるだろう。

今回の事件を電通のせいに全て押し付ける形で、根本的な問題解決を軽視し、臭いものに蓋をするだけなら、問題は何度でも繰り返されることになるだろう。特定の会社や個人の問題として片づけるべきではない。

たとえば、今後の改善策として、一定規模以上の国際イベントを実施する際には、組織人事、発注額、契約方式などの基礎データを随時全公開することを義務付けること、組織運営の透明性に関する調査を専門とする第三者機関・NGOなどからの監査を受けること、一人の担当者に依存することなく複数の人間による内部牽制が働くようにすることなど、改革を前提とした組織運営を実施するべきだ。真に必要な改革とはスケープゴートを用意して捕まえるだけでは完結ではない。むしろ、それは問題を先送りとし、企業や個人を痛めつける不毛な結果しか残さないだろう。

国際イベントは日本で今後も開催されることは疑う余地はない。問題はいかに透明性を向上させて腐敗を防止していくかである。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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