コラム

中国の台頭を招くバイデン政権の外交安全保障政策に備えよ

2021年02月12日(金)12時00分

バイデン政権はロシアのプーチン大統領との間で2月3日、両国間の唯一の核軍縮条約である新戦略兵器削減条約(新START)を2026年まで延長すると正式に発表した。トランプ政権時代に既にINF全廃条約が失効しており、同条約が延長されない場合、米国やロシアの軍拡競争に拍車がかかる可能性があったため、同協定の延長は最低限妥当な判断であったように思う。

しかし、東アジア地域における中国の超音速ミサイル問題については解決される見通しや対話が行われる兆しすらない。地域の安定と発展のためには、米ロだけでなく中国も含んだ新しい軍縮枠組みが必要なことは当然だ。

バイデン政権は中国のA2AD能力強化に対してより効果的で安価な対中兵装を整備して対抗することを示唆しているが、それらはあくまでも米国の対中能力維持を意味するものであり、日本の安全保障に直接的に貢献するものであるかは疑問だ。したがって、日本は東アジアの核による均衡は既に崩れているというシナリオを想定し、独自の安全保障政策の検討に踏み切るべきだ。

(3)カート・キャンベル、インド太平洋調整官の対中認識が甘すぎる

バイデン政権でインド太平洋調整官に就任したカート・キャンベル氏は、フォーリン・アフェアーズ・リポートの中で、

「地域内秩序内に北京の居場所を確保し、秩序を支える主要国際機関における中国のメンバーシップを認め、中国がルールに即して行動することを前提に予測可能な通商環境を提供し、気候変動対策、インフラ整備、COVID19パンデミック対策をめぐる協調から恩恵を受ける機会をともに共有していくことだ。」

「システムのパワーバランスと正統性をともに維持するには、同盟国やパートナーとの力強い連帯、そして中国の黙認と一定の応諾を取り付けておく必要がある。」

と述べている。同氏が就任したポストはホワイトハウスのポストであり、連邦上院議員による厳しい対中質疑を受けた上で承認されるポストではない。仮に連邦議会でこのような甘い認識を露呈したならば、同氏が共和党側から激しい批判にさらされたであろうことは想像に難くない。中国が厳しい競争相手であることは議論の余地はないが、同氏の中国側の善意に期待する仮定に仮定を重ねた論稿には説得力が欠けている。

気を抜けば目まぐるしく変化する国際情勢から一瞬で取り残される

以上のように、バイデン政権発足して3週間程度が経過したが、現状だけでも対中政策上の問題点が徐々に明らかになりつつある。

日本政府はバイデン政権の対中外交安全保障政策に対する懸念に真摯に向き合うべきだ。新しい時代の幕が既に上がっており、ここで気を抜けば目まぐるしく変化する国際情勢から一瞬で取り残される事態が起きることになるだろう。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

イラン戦争でも金利変更急ぐべきではない、複数のEC

ビジネス

南アフリカ、25年成長率は1.1% 中銀・政府予想

ワールド

イランとの対話に応じる可能性、トランプ氏インタビュ

ワールド

「イラン国民は専制政治のくびき脱するべき」、イスラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目のやり場に困る」密着ウェア姿がネットを席巻
  • 4
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 5
    人間ダンサーを連れて「圧巻のパフォーマンス」...こ…
  • 6
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ル…
  • 7
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 8
    トランプも無視できない? イランで浮上した「危機管…
  • 9
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 10
    身長や外見も審査され、軍隊並みの訓練を受ける...中…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 6
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 7
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story