コラム

中国の台頭を招くバイデン政権の外交安全保障政策に備えよ

2021年02月12日(金)12時00分

バイデン政権が中国の影響力拡大に対して中長期的に十分に対応できない可能性がある...... REUTERS/Carlos Barria

<バイデン政権発足して3週間程度が経過したが、現状でも対中政策上の問題点が徐々に明らかになりつつある...... >

バイデン政権はトランプ時代の対中政策の方向は維持しつつ、欧州諸国とインド太平洋諸国が中国に対して抱く懸念のレベルを調整し、両地域の国々を米国の味方につける体制を築こうとしている。トランプ政権が単独行動主義で中国に挑んで激しい抵抗にあった結果、バイデン政権は東アジアにおける米国と中国の彼我の経済的・政治的な力量が極めて拮抗している現実を受け入れたということだろう。

このアプローチが功を奏するか否かはいまだ不明であるが、バイデン政権が中国の影響力拡大に対して中長期的に十分に対応できない可能性があることは事実だ。

もちろん米国は同盟国であり、日本にとって重要なパートナーであるが、力ある友人として常に信頼を置くか否かは米国の実際の行動と裏付け次第である。バイデン政権発足以来の米国の外交安全保障政策の優先順位はやや不明瞭であり、対中国の対処能力や本気度に疑問が残る。そのため、我々日本人も独自の戦略的なアプローチを展開することを検討するべきであろう。

バイデン政権の外交安全保障上の懸念点

バイデン政権の政権発足以来の外交安全保障上の懸念点を幾つか挙げていこう。

(1)気候変動問題に対する再エネ振興で中国へのレアアース依存が強化される

バイデン政権はケリー元国務長官を気候変動担当大統領特使として任命し、気候変動問題に積極的に取り組む意欲を見せている。政権発足早々に大統領令でパリ協定復帰に署名したこと、キーストンXLパイプラインの建設凍結、新規のオイル・ガス掘削を禁止したことなど、米国の化石燃料産業に敵対的な姿勢を見せている。

一方、バイデン政権が掲げているグリーン・ニューディールは、CO2の排出量こそ低下するかもしれないが、蓄電池、風力発電、太陽光発電、その他諸々のインフラ整備のために膨大なレアアースを必要とする。そして、それらレアアースの最大供給国は中国であり、中国無しでは再生可能エネルギー社会を構築することは困難である。

つまり、仮にバイデン政権が気候変動の優先順位を本当に引き上げ続ける場合、それはレアアース問題で中国に完全に首根っこを掴まれることを意味する。(更には、米国の化石燃料産業が衰退したところで、ロシアやサウジなどの他の産油国が勢いを増すだけかもしれない。)

そのため、米国は中国へのレアアース依存への危機感を募らせており、サプライチェーンの見直しなどに着手している。しかし、それでも十分に問題に対処することはできないだろう。その上、日本は中国のレアアース依存リスクにほぼノーガードのままグリーン産業化に舵を切ろうとしている。日本の無邪気な振る舞いは東アジアの地政学を変更する可能性があるリスクがあることを認識するべきだ。

(2)中国の超音速ミサイルに対する同盟国防衛が無策に陥る可能性がある

中国人民解放軍は射程約2500キロ、マッハ5以上で飛来する超音速ミサイル「東風17」を台湾沿岸部に配備したとされる。同ミサイルは米国のミサイル防衛システムでは迎撃困難であり、台湾は言うまでもなく、日本にとっても極めて重大な脅威となる存在だと言えるだろう。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

リトアニア首都の空港、気球飛来情報で一時閉鎖 計約

ビジネス

ビットコイン史上最高値更新、12万5000ドルを突

ワールド

ロ、ウクライナに無人機・ミサイル攻撃 ポーランド機

ワールド

トランプ氏のポートランド派兵一時差し止め、オレゴン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、Appleはなぜ「未来の素材」の使用をやめたのか?
  • 2
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿すると「腎臓の検査を」のコメントが、一体なぜ?
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    イエスとはいったい何者だったのか?...人類史を二分…
  • 7
    一体なぜ? 大谷翔平は台湾ファンに「高校生」と呼ば…
  • 8
    「美しい」けど「気まずい」...ウィリアム皇太子夫妻…
  • 9
    墓場に現れる「青い火の玉」正体が遂に判明...「鬼火…
  • 10
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 5
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 8
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 9
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 10
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story