コラム

ネットビリオネアが牽引する21世紀の宇宙探検

2018年04月13日(金)19時50分

宇宙開発競争のライバルだったソビエト連邦に大勝利したことにアメリカ国民は歓喜し、満足した。だが、それと同時に月や宇宙探索への情熱も失った。月に行けないソビエト連邦などはもはやライバルではない。ライバルを失ったことでアメリカ国民は宇宙計画への興味を失い、NASAの予算は削減され、当初予定されていたアポロ18、19、20号はキャンセルされた。NASAに与えられる資金は急速に減り、1990年代にはすでに国家予算の0.5%以下になっていた。

家族全員が1台の小さな白黒テレビの前に集まってニール・アームストロングが月に降り立つのを見た時代とは異なり、2020 年を目前にした現在は情報や娯楽の選択肢に限りがない。この時代に、宇宙への有人ミッションに関して60年代の宇宙開発競争に匹敵する興奮を国民に与えることはできない。これまでもそうだったが、今後も国家予算から大金を得るのが容易になるとは思えない。

月面を歩いたアポロ宇宙飛行士たちが高齢化し、アメリカが壮大な夢を忘れそうになっているときに宇宙の夢を引き継ぐ決意をした者がいる。1990年代から2000年代にかけてのインターネットブームで大金を手にしたビリオネアたちだ。

主要な立役者は、昨年10月にビル・ゲイツを抜いて世界一の富豪になったアマゾン創業者のジェフ・ベゾス、テスラCEOのイーロン・マスク、マイクロソフト社の共同創業者ポール・アレン、ヴァージン・グループ創設者のリチャード・ブランソンだ。

彼らビリオネアによる宇宙ビジネスについて詳しく解説するノンフィクションが、今年3月に2冊同時に発売された。

『スペース・バロンズ(The Space Barons)』の著者はワシントン・ポスト紙で宇宙事業や防衛事業を専門とする記者のクリスチャン・ダベンポートで、『ロケット・ビリオネアズ(Rocket Billionaires)』の著者は新進のビジネスメディア「クオーツ」の記者であるティム・ファーンホーズだ。

どちらの本もマスクとベゾスの競争に焦点を当てており、読み応えがある。そのうえで、私は『スペース・バロンズ』のほうが人間ドラマを感じて入り込みやすいと感じた。

『ロケット・ビリオネアズ』のファーンホーズもマスクに取材するなど徹底しているが、ベゾスから率直な意見を聞き出したダベンポートのほうにより大きな価値を感じる。というのは、オープンなマスクとは違って、ベゾスは自分のプライバシーを徹底的に保護する秘密主義だからだ。ダベンポートはベゾスが所有するワシントン・ポストの記者だが、その有利な立場でも取材許可を得るのには時間と努力を要したようだ。また、ダベンポートの語り口は、筆者たちの世代が忘れかけていた夢を思い出させてくれた。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない

ビジネス

米国株式市場=続落、ダウ453ドル安 原油高と雇用
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園で撮影された「恐怖の瞬間」映像にネット震撼
  • 4
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 9
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 10
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story