コラム

「爆発音なきテロ」──進化する脅威の主戦場はスマホの中に

2025年07月25日(金)16時04分

地政学的変動と新たなテロの脅威

2023年10月7日のイスラエル・ガザ戦争以降、反イスラエル感情を利用したプロパガンダがアルカイダやISによって強化されている。これらのグループは、伝統的にハマスに反対する立場を維持しつつも、ガザ紛争を活用して世界中の支持者を動員しようとしている。

シリアでは、アサド政権の崩壊後、外国戦闘員の動向が新たな不安定要因となっている。イランは「抵抗の軸」を再構築し、特にヒズボラを活用したテロ活動を強化する可能性がある。2025年4月のカシミールでの攻撃は、核保有国であるインドとパキスタンを戦争の瀬戸際に追いやり、テロが国家間紛争の引き金となる危険性を浮き彫りにした。


対テロ戦略の課題

これらの脅威が拡大する中、欧米諸国の間では対テロ予算の削減や「対テロ疲れ」が進んでいる。20年あまりの世界的なテロ戦争の後、国際社会の焦点は大国間競争に移り、テロ対策が後回しになりつつある。だが、ジハーディストや単独行動者、極右勢力、さらには新興技術を活用したテロの脅威は依然として残っている。

テロリズムは、新興技術の活用と地政学的変動により、かつてない複雑さと拡散性を持っている。アルカイダやISの地域支部は勢力を維持し、AIやソーシャルメディアを駆使したプロパガンダで新たな支持者を獲得している。

米国をはじめ国際社会は、予算削減や疲弊感に屈せず、技術革新と情報共有を強化し、進化するテロの脅威に対抗する必要がある。テロとの戦いは終わりではなく、新たな段階に入ったといった方が適切だろう。

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プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

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