コラム

「爆発音なきテロ」──進化する脅威の主戦場はスマホの中に

2025年07月25日(金)16時04分

アフガニスタンでは、2021年の米軍撤退以降、情報収集の空白地帯が生じ、アルカイダの活動に関する信頼できる情報が不足している。米下院外交委員会では、アフガニスタンが再びテロリストの安全な避難所となり、地域や世界への攻撃能力を強化しているとの懸念も示され、国連監視チームも、アルカイダが外部作戦への野心を維持していると指摘している。

2025年6月には、フィラデルフィアでアルカイダのメンバーと疑われるタジキスタン出身者が逮捕される事件も明らかになっている。


テロと新興技術

イスラム国ホラサン州(ISKP)は、2024年にトルコ、イラン、ロシアで高注目度の攻撃を実施し、ヨーロッパでも複数の陰謀を企てた。2025年前半は目立った攻撃が少ないものの、オンラインでの活動は活発で、複数の言語(パシュトー語、ダリー語、アラビア語など)でプロパガンダを展開し、TelegramやTikTok、Facebookなどのプラットフォームを活用している。

特に、生成AIを活用して各国向けにカスタマイズされたプロパガンダを大規模に配信する可能性が指摘されており、単独行動者や過激派の動機づけに大きな影響を与えている。

テロリストは、ドローン、AI、暗号通貨、暗号化技術、3Dプリンティングなどの新興技術を攻撃の力の増幅器として利用している。2025年元旦のニューオーリンズで発生したトラック襲撃事件では、実行者がMetaスマートグラスを使用し、1月3日にラスベガスで発生したテスラサイバートラック爆弾事件では、ChatGPTが攻撃計画に活用された。

これらの事例は、テロリストが攻撃計画の各段階で新興技術を活用することが、例外ではなく標準となりつつあることを示している。

また、サイバー空間でのテロ活動も拡大している。テロ組織や敵対国家は、偽情報キャンペーンを通じて社会を不安定化させ、ソーシャルメディアの脆弱性を悪用して過激化や新規メンバーの勧誘を進めている。オンラインでのテロコンテンツの拡散は憂慮すべき状況にあり、プラットフォームの対応が追いついていない。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

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