コラム

日本の中心は諏訪にあり 「原日本」を求めて諏訪大社の秘密に迫る

2020年05月20日(水)12時30分

撮影:内村コースケ

第18回 諏訪大社上社参道 → 下諏訪駅
<令和の新時代を迎えた今、名実共に「戦後」が終わり、2020年代は新しい世代が新しい日本を築いていくことになるだろう。その新時代の幕開けを、飾らない日常を歩きながら体感したい。そう思って、東京の晴海埠頭から、新潟県糸魚川市の日本海を目指して歩き始めた。>

map1.jpg

「日本横断徒歩の旅」全行程の想定最短ルート :Googleマップより

map2.jpg

これまでの17回で実際に歩いてきたルート:YAMAP「活動データ」より

◆諏訪大社4社を1日で巡る「歩き旅」

7R401909.jpg

現在は生活道路になっている諏訪大社上社の参道

今回は諏訪大社を巡る。諏訪大社は、全国の諏訪神社の総本山的なメジャーな神社だが、最古の神社の一つと並び称される出雲大社のように「諏訪大社」という一つの大きな神社があるわけではない。まず、「上社」と「下社」に分かれ、さらに上社は「本宮」(長野県諏訪市)と「前宮」(茅野市)、下社は「秋宮」「春宮」(下諏訪町)に分かれる。つまり、諏訪湖を中心に散らばる4つの神社を総称して「諏訪大社」と言う。

そんな特異な形を取る諏訪大社は、日本の成り立ちを考えるうえで鍵となる存在だ。現代日本の象徴である天皇は神社と切っても切れない関係にあり、日本の国体は、時代の波にもまれながらも、根本的には神社とその信仰と共に築かれていったと言ってもいいのではないだろうか。一方、諏訪大社の悠久の歴史を紐解くと、それよりもさらに前の"原日本"ともいうべき日本人の真のルーツが見えてくる。「日本を知る」ことがこの『日本横断徒歩の旅』のテーマだから、今回はある意味旅全体のハイライトである。

スタート地点は、上社本宮の参道入り口。宮川にかかる橋の手前の大きな石造りの鳥居が目印だ。3kmほど歩くと上社本宮に至る。諏訪大社の参道というと、古式ゆかしい苔むした石畳の道などをイメージしがだが、実際の現在の姿は片側一車線のごく普通の生活道路。途中の交差点からは、全国チェーンのファストフード店や携帯ショップ、自動車ディーラーなどが立ち並ぶ、日本全国どこにでもある"埼玉通り"(現代日本の標準は埼玉にあり、とする魔夜峰央原作の映画『翔んで埼玉』にちなむ)も見えた。古の日本へといざなう参道は、現代の俗世をも包み込んでいた。

7R401891.jpg

諏訪大社上社本宮の参道と交差する"埼玉通り"

◆「原日本」と「現日本」が融合する地

7R401940.jpg

諏訪では、どんなに小さな社にも4本の御柱が立つ。さらに全国共通の鳥居も同居する

諏訪大社と言えば、7年に1度催される御柱祭が有名だ。山から切り出した御柱(長さ17m、直径1m、重さ10トンほど)を諏訪大社の4社へ各4本(計16本)、氏子たちが掛け声と共に曳いていく。御柱とは、境内の4隅に立てる御神木のことで、7年に一度の立て替え工事が神事(祭り)の形となったのが、天下の奇祭と言われる御柱祭の正体だと考えると分かりやすい。

御柱祭の最大の山場は、人が乗ったまま急斜面を下る「木落し」と、川を渡る「川越し」だ。普段は朴訥で控え目な諏訪の人々も、この日ばかりは燃え上がる。毎回のように死者とけが人が出ることもよく知られている。僕は、前回(2016年)の御柱祭をこの目で見たが、御柱は、一般的な祭りの神輿(みこし)や山車(だし)のごくプリミティブな形態なのだと解釈した。ルーツは縄文時代の巨木信仰にあるという説もあるように、日本の祭りの原風景が、諏訪の地には脈々と受け継がれている。

御柱祭は、諏訪大社だけのものではなく、小さな社を含め、諏訪地域の全ての諏訪神社で同時期に行われる。それらの小さな御柱祭は、地元では「小宮祭」と呼ばれている。当然、小宮祭で曳かれ、立てられた4本の御柱は、諏訪地域のどんな小さな神社にも見られる。面白いのは、全国共通の鳥居も併存していることだ。このある意味アンバランスな光景を、今回、上社本宮の参道沿いの土手下の社でも見かけた。御柱が象徴するのが縄文的な「原日本」なら、その後の神話時代に端を発する「現日本」の象徴は鳥居である。そして、両者が重なり合う諏訪の神社は、「原日本」と「現日本」の融合の象徴に見える。

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国特別検察官、尹前大統領の拘束令状請求 職権乱用

ワールド

ダライ・ラマ、「一介の仏教僧」として使命に注力 9

ワールド

台湾鴻海、第2四半期売上高は過去最高 地政学的・為

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story