コラム

「パナマ文書」を最初に受け取ったドイツ人記者の手記にみる、「暴露の世紀」の到来

2016年08月26日(金)16時30分

暴露の世紀

 パナマ文書には日本についても個人名や社名がいくつか上がっているが、ビッグスキャンダルには今のところ発展していない。『パナマ文書』でも「ヤクザ」という一言が出てくるだけで、日本への言及はない。中国名と同じようにアルファベットの日本名が欧米の記者には分かりにくいということもあるのかもしれない。

【参考記事】パナマ文書問題、日本の資産家は本当に税金逃れをしているのか?

 しかし、日本もすでに金融取引の規制を強化しつつある。G8やG20の場でも関連する合意がなされており、日本国内でも口座開設手続きが厳しくなり、多額の取引は監視対象になっている。海外に一定額以上の資産を持つ人は申告が義務化された。

 何かと情報漏洩が懸念されるマイナンバーも、実はこうした世界的な動きと連動してくる。日本からも多額の資金がオフショアに流れていると見られているが、それを把握することで公平な税負担を可能にするためにマイナンバーは使われるようになる。各国と資金取引に関する状況を共有し、匿名によるペーパーカンパニーを各国が規制していけば、パナマ文書に現れたような悪賢い取引はなくせるとオーバーマイヤー・ブラザーズは主張している。

 アフリカといえば我々には貧しいイメージが伴うだろう。しかし、本来は天然資源に溢れた土地である。問題は、その資源が不当に搾取されており、人々が共有すべき富が一部の人たちに独占され、海外に流出していることである。モサック=フォンセカのようなオフショア・ペーパーカンパニー・プロバイダーが、顧客の秘密厳守の名の下に、それを助長している。

 しかし、オーバーマイヤー・ブラザーズは「どこかで秘密のビジネスを行いデジタルの痕跡を残している者は、今日もはや枕を高くして眠ることなどできない」という。「このデジタル社会においては、痕跡を残さずに何かをするなどということは幻想にすぎない」からである。

 オフショア・ペーパーカンパニー・プロバイダーの仕事もフルにデジタル化されている。依頼人のパスポートがデジタルスキャンされ保存されていることもある。依頼人とのやりとりは秘密の電子メールシステムで行われる。しかし、デジタルであれば、それはずっと容易に漏洩される。今後もいろいろなところから不正を暴く漏洩が行われるようになるだろう。暴露の世紀が始まっている。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は小反発、FOMC通過で 介入観測浮

ビジネス

国債買入の調整は時間かけて、能動的な政策手段とせず

ワールド

韓国CPI、4月は前年比+2.9%に鈍化 予想下回

ビジネス

為替、購買力平価と市場実勢の大幅乖離に関心=日銀3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story