コラム

電子戦再考:米陸軍で「サイバー電磁活動」の検討が始まっている

2016年04月04日(月)16時45分

 しかし、核実験を行い、人工衛星を打ち上げる能力を持ちつつある北朝鮮は、EMP爆弾を使えるということになる。EMP爆弾は核爆発を起こさせるが、爆風や放射線による人体への被害は引き起こさない。ペースメーカーなどに影響が出る恐れがあるが、ほとんどの人の体には影響は出ない。しかし、社会的に大きな混乱を引き起こすことはできる。反撃しようにも、自衛隊の装備システムも多大な影響を免れない。

 北朝鮮に限らず、核技術とロケット技術の両方を持っていればEMP爆弾は想定し得るオプションということになる。

サイバー電磁活動(CEMA)

 サイバー戦と電子戦を比べてみれば、似て非なるものであることが分かる。しかし、それを融合的に考える枠組みも出てきている。2014年2月に一般公開された米陸軍の「FM3-38:サイバー電磁活動」と題する文書もその一つである。「FM」とはフィールド・マニュアルの略で、戦場でのマニュアルということになる。FMの多くは一般公開されており、FM3-38もインターネットでダウンロードできる

 この文書ではサイバー電磁活動(cyber electromagnetic activities)を「CEMA(シーマ)」と略している。CEMAは、サイバー作戦(CO)、電子戦(EW)、スペクトラム管理作戦(SMO)という三つの領域が重なるところを扱う。

 CEMAとは、サイバースペースと電磁スペクトラムの両方において敵対者および敵国を上回る優位な立場を獲得・保持・活用するために使われる活動のことであり、同時に、敵対者および敵国が同じものを利用することを否定ないし低下させ、任務指揮システムを保護することとされている。

変質が進む米軍

 簡単に言えば、陸、海、空、宇宙という作戦領域をつなぐのがサイバースペースと電磁スペクトラムであり、これらが失われてしまえば、通常の軍事活動に支障を来すことになるため、自軍の指揮システムを守り、敵軍のそれを破壊・妨害することを目指す。

 おそらくは、EMP爆弾のような大げさなことをしなくても、電波のジャミングやサイバー攻撃を組み合わせて部分的・一時的にでも相手の通信システムをダウンさせれば戦局を優位に運ぶことができる。そのための手段が研究・検討されており、逆に米陸軍はそうした攻撃を受けることを想定しているということだろう。

 1990年代のクリントン政権時代に米軍では「軍事における革命(RMA)」が始まり、2000年代のブッシュ政権時代には「トランスフォーメーション」が始まった。トランスフォーメーションは米軍部隊の再配置と受け取る向きもあるが、「トランスフォーム」とは本来、「すっかり変える、一変させる」という意味であり、新しい技術の取り込みを含めた質的転換のことである。それがあるからこそ、部隊の再配置にも結果的につながる。

 米軍はRMAやトランスフォーメーションを進めたからこそ、新たな可能性と脆弱性に気づき、CEMAを課題にしつつある。

 ここまで書きながら、正直なところ、電子戦は荒唐無稽な気もする。しかし、何度も電子戦が国際会議で言及されるのを聞いていると、何か知らないことが起きているのかもしれないという気がしている。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ホワイトハウス付近で銃撃、州兵2人重体 トランプ

ワールド

ニュージーランド経済、下半期は拡大 需要安定化=中

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、5万円回復 ハイテク株し

ビジネス

英、高額所得者の国民保険料優遇措置を大幅削減へ 雇
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story