コラム

海外で高く評価される日本の「ボロ布」文化...家電にもその精神を生かすべき

2022年07月28日(木)18時13分
トニー・ラズロ
スマホ分解

MAXIMKOSTENKO/ISTOCK

<欧米では電化製品などを「自分で修理する権利」が制度化へ動きだしているが、この分野について日本はまだまだ後進国>

「これ、例の宝物」。長い間会っていなかった京都の友達がカフェのテーブルに真結びしてある風呂敷包みをポンと置いた。裁縫師をやっているということもあって、彼女は風呂敷がよく似合う。結びを解いてみると、布の切り端がたくさん詰まっていた。色とりどりで素朴な美しさもあるが、ボロいとも言える。......これが宝物?

切り端はある年配の女性に丸ごと譲ってもらったものらしい。戦後を日本の雪国で過ごしてきた方。

衣服やその材料が手に入りにくい状況下で、女性たちは使い古した着物や羽織、掛け布団などを米のとぎ汁に漬け置いた後、分解してはその切り端を使って継ぎはぎすることで、あらゆる布製のものを直したり、また新たに作り上げたりしてきた。その風呂敷に包まれていたのは、そういう大切にされてきた「ボロ布」だ。

近年、古い衣類を捨てずに組み直して新たなものを作る日本のこの文化は、海外のファッション業界で注目されている。2013年のルイ・ヴィトンをはじめ、多くの世界的コレクションにも登場した。そのままBOROという名として。

一方、ほかの業界はどうか。家の中が家電だらけの僕はそちらが気になる。

「開けないでください」といった警告がデバイスに貼られ、バッテリー交換すら自分でできず、トラブルが発生したら、だいたいメーカーに連絡する羽目になる。そして、たとえ電源コードの接触が怪しくなったという程度のトラブルでも、保証期間を過ぎていたら、買い換えたほうが安いことがしばしば判明する。

メーカーしか修理できない保証規定を改善

ありがちな話だ。DIYで、あるいは近所の修理店で気軽に直せたら、修理代や発送代の節約になり、ごみを出す機会を減らし、資源を無駄にしなくて済むのに。

「自分で修理しないでください」はスマートフォンが典型だったが、アメリカとEUではしばらく前からメーカー以外でも製品の修理ができる「修理する権利」が重視され、政策上の動きがある。

アメリカは州によっては、製品の修理に必要な情報の公開や部品の提供がメーカーに命じられており、また独自の修理を行っても保証が無効にならないようになっている。これは家電に限った話ではない。米連邦取引委員会(FTC)は今年、オートバイやソフトウエア、発電機、そしてBBQグリルのメーカーの保証規定に違法性があると指摘し、改善を命じてきた。

EUでも昨年から、「修理する権利」を認め、その規則をまとめた法が施行されている。これでEU圏内では、従来よりも手軽に「セルフ修理」が可能な電化製品が販売されるようになった。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

スペインGDP、第3四半期改定は前期比+0.6% 

ワールド

タイ、金取引の規制検討 「巨額」取引がバーツ高要因

ワールド

米当局、中国DJIなど外国製ドローンの新規承認禁止

ワールド

中国、米国に核軍縮の責任果たすよう要求 米国防総省
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story