コラム

日本人は「わが街」を愛する気持ちを失ったのか? 治安悪化の一因にも

2022年02月11日(金)10時54分
石野シャハラン
日本社会

TERROA/ISTOCK

<日本の「治安の良さ」を支えてきた要因のひとつはコミュニティーが機能してきたことだが、自分の住む街を重視しない人が増えている?>

昨年以来、電車内での無差別殺傷事件など物騒な事件がいくつも続き、治安のいい国として広く認識されてきた日本の評判に暗い影を落としている。そういった事件の容疑者の背景には、たいてい孤独や孤立といった言葉が付いて回る。

日本の治安の良さは、安定した経済や失業率の低さがもたらしたものだろうが、長らくコミュニティーがいい形で機能してきたことも大きいと思う。町内会があり、回覧板が回り、ごみ集積所の掃除当番がある。

付き合いが面倒であったり、プライバシーが守れるか不安だったりなど、さまざまな意見があるとは思うが、お互いに助け合ってきたというのは事実だろう。

私の生まれ故郷イランは、今でもコミュニティーがしっかりと機能していて、町内会や回覧板こそないが、それらが必要ないほど隣近所が常に声を掛け合い、助け合っている。私の母はマンションで1人暮らしをしているが、毎日のように近所の人が顔を出しては、膝の調子が悪い母にスーパーに行くが買ってきてほしいものはないか、などと声を掛けてくれる。

日本でも、大手外資系企業などは必ず1年に数日「コミュニティーデー」という日を設けていて、社員たちが積極的に地域のボランティア活動に参加することが推奨される。たいていはその会社の役員など、立場の上の人から率先して参加するので、部下たちも参加せざるを得ない雰囲気になる。

それくらい、コミュニティーへの奉仕が大事であると認識されている。

なぜ縁もゆかりもない町に納税?

では一般の日本人の皆さんはどうだろうか。私には、コミュニティーへの帰属意識がずいぶん低くなっているように思える。隣人がどんな人だか分からない、挨拶をする程度の知り合いもいない、などというのは現代日本の都市生活では驚くほどのことではない。

私が驚くのは、ふるさと納税のシステムだ。私はてっきり、自分の生まれ育った故郷に納税する仕組みだと思っていた。だが、自分には縁もゆかりもない地方自治体に納税(寄付)すると、その分だけ住民税などが控除され、返礼品がもらえるシステムだと知り、とてもがっかりした。

日本人の皆さんは義務教育で民主主義について学んできたはずだ。地方自治は国政よりも身近な、いわば民主主義の入り口のようなものだ。

市民が選挙で選んだ施政者が市民から集めた税金を使って、市民のために学校や上下水道の整備、ごみ処理などの行政サービスを担うのだから、より目に見える形で民主主義が実現される場である。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正ロシア前国防相、北朝鮮の金総書記と平壌で会談=

ワールド

トランプ氏また暗殺未遂、近くで発砲音も無事 容疑者

ワールド

トランプ氏「テイラー・スウィフトは嫌い」、ハリス氏

ワールド

東部ハリコフ市のアパートにロシア誘導爆弾、1人死亡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウィリアムとヘンリーの間に「信頼はない」...近い将来の「和解は考えられない」と伝記作家が断言
  • 2
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライナ軍MANPADSの餌食になる瞬間の映像を公開
  • 3
    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺到...男性なら「笑い」になる、反応の違いは差別か?
  • 4
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 5
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 6
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 7
    広報戦略ミス?...霞んでしまったメーガン妃とヘンリ…
  • 8
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座…
  • 9
    バルト三国で、急速に強まるロシアの「侵攻」への警…
  • 10
    「残飯漁ってる」実家を出たマドンナ息子が訴える「…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 4
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 5
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 6
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 7
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 8
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 9
    キャサリン妃、化学療法終了も「まだ完全復帰はない…
  • 10
    33店舗が閉店、100店舗を割るヨーカドーの真相...い…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 6
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 7
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 8
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story