コラム

外国人同士が「目配せ」する、日本人には言いづらい「本音」

2022年01月14日(金)18時13分
石野シャハラン
都心の神社

KENJI TANAKA/ISTOCK

<日本が好きで日本に住んでいる外国人が、実は共通して経験している「小さな生きづらさ」の積み重ねと悲しい思い>

私は年末年始の休みを都内で静かに過ごし、毎日長めの散歩をしていた。

散歩は私の趣味で、東京は最適な場所だ。最新の都市開発地や高層ビルの間に、古い民家や商店、神社仏閣がポツンと残っていたりして面白い。

そうやって散歩をしていると、外国人の住民とすれ違うことがある。そういうときはほんの一瞬短い挨拶をする。言葉は交わさず立ち止まりもしない、歩みも緩めない。すれ違いざまにただ目線を合わせて小さくニコッとしたり、軽くうなずいたりするだけだ。

一緒に散歩している妻は毎回「ソレ何なの」とあきれているが、あの0.5秒ほどの挨拶ともいえない挨拶には、外国人同士の互いへの同情と同調がたくさん込められている。短く言えば「ここ(日本)に住むといろいろあるよね」という感情の共有である。

外国人や外国暮らしが長かった日本人が日本の生活で感じる違和感、生きにくさ、制度の問題点や行政の対応のまずさは、日本でしか暮らしたことのない日本人には理解できないところがある。

例えば、私は役所に住民票をもらいに行くたびに、日本国籍を持っているにもかかわらず「外国人登録証を見せて」と言われる。日本人から言わせるとこれは「日本人になった外国人が少ないのだから仕方がない」のだが、私はウンザリするし傷つきもする。

コミュニティーの一員ではない?

買い物に行っても、店員は連れの日本人のほうばかりを向いて話をして私のほうは見ようとしない。これも日本人にとっては「日本語をよく理解しない外国人が多いから」なのだろうが、私はとても嫌な気分になるし見た目の違いだけで永遠にガイジン扱いなんだなと悲しくなる。

このように外国人が日本で感じる「生きづらさ」は、案外そういうことの積み重ねであったりする。それは小さなことなのだが、毎日何かしら同様のことが続くと、自分がコミュニティーの一員であると感じられなくなってくる。

数年前からビジネス界では「外国人雇用」がはやっていて、このテーマを掲げたセミナーやフォーラムがコロナ禍でもたくさん開かれている。興味深いことに講師や登壇者はほとんど日本人で、外国人はほんのおまけ程度にしか参加していない。つまり日本に暮らす日本人同士が熱心に「外国人と働くにはどうしたらいいのか」を話し合っているわけで、これは外国人から見るとなかなか奇妙である。

学校からいじめをなくすための対策会議にいじめられた生徒の意見を取り入れなかったり、女性活躍推進のための会議に女性を入れなかったりといったことと同じ図式だ。これで本当に効果のある対策を立て、必要なスキルを共有できるのだろうか?

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国機の安全阻害との指摘当たらず、今後も冷静かつ毅

ビジネス

バークレイズ、英資産運用大手エブリン買収を検討=関

ワールド

独仏首脳、次世代戦闘機開発計画について近く協議へ=

ワールド

香港議会選の投票率低調、過去最低は上回る 棄権扇動
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story