コラム

来日30年超、それでも私が日本国籍を取得しない理由

2022年01月28日(金)17時10分
周 来友(しゅう・らいゆう)
日本のパスポート

日本のパスポート YUSUKE IDE/ISTOCK

<日本のパスポートは「世界最強」。「どうして帰化しないの?」と聞かれることもあるが......>

私は中国人だ。もっと正確に言えば来日して30年以上たち、日本人の配偶者がいる今も国籍は中国のままの中国人だ。

「どうして周さんは帰化しないの?」

年末、自分のYouTubeチャンネルにゲストを呼び、国籍をテーマに激論を交わした際もそう聞かれた。

1987年に留学生として来日したとき、日本人の保証人を立てなければならなかった。その後、日本からドイツに留学したときも同様だった。どちらも私が中国人だったから。90年代に渡独した日本人には保証人など要らなかった。

北京の大学時代の恩師が、後にボストンの大学で教鞭を執るようになり、遊びにおいでと言ってくれたことがあった。東京・赤坂のアメリカ大使館に出向き、観光ビザを申請すると......あっさり却下された。

1989年に天安門事件が起こり、渡米する中国人にかつてない厳しい目が向けられていたこともあるが、それ以来、アメリカに対する興味はうせ、かの国には一度も行ったことがない。

日本のパスポートは「世界最強」と言われる。シンガポールと並び、ビザなしで渡航できる国が192カ国と世界一多いからだ(英コンサルティング会社ヘンリー・アンド・パートナーズの調査)。

それに比べて中国は、以前よりずいぶん増えたとはいえ、80カ国。その不便さに私はしばしば泣かされてきた。家族で海外旅行に行くと、入国審査で私だけ足止めを食らったりする。この苦労、日本人には到底分かるまい。

中国国籍なので、もちろん中国に入るのに不自由はない。しかし、実は中国に私の戸籍はない。1990年前後に公安当局が父の元に来て「お宅の息子はもう存在していないのと同じだ」と言って抹消したらしい。

私はその後、取材で訪れた地方のホテルで「パスポートじゃ駄目だ。中国人なら中国の戸籍があるだろう。身分証を出せ」と、難癖をつけられたことがある。

つまり、中国国籍のままでいるメリットなんか何もない。不便なことのほうがよっぽど多い。だから、条件さえ整えば日本国籍を手に入れたい――。そう考える在日外国人、特に中国人の気持ちは分からないでもない。

ここ10年、毎年1万人前後の在日外国人が日本に帰化しており、中国人はその約3割を占める。

私の番組のゲストも「国籍は住所の一部のようなもの」と言っていた。利便性を理由に帰化しただけ、政治的立場や愛国心はそれまでと変わらない、と。

古い考えかもしれないが、私はそうは思わない。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル・イランの衝突激化、市民に死傷者 紛争拡

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story