もう「安全な国」でなくなった日本が、若者を「自助」で追い詰める危険さ
FILADENDRON/ISTOCK
<電車内での無差別殺傷事件で治安が不安視されるようになった日本に、テロの恐怖を知るフランス人筆者が伝えたいこと>
「日本に住むのはどう?」。初めて会った日本人と雑談をすると、必ず出てくる質問だ。私はいつも「住みやすい国だよ。便利で安全だから」と答える。
パリで10年間暮らした私にとって、確かに東京は住みやすい大都市だ。パリをエッフェル塔の上から見ると圧倒的に奇麗だが、街を歩くと汚いところ、怖いと思うところ、不便なこと、あるいは危険だと思う場面が多すぎる。特に女性にとってはそうだ。
日本の治安の良さや電車の利便性などはやはり非常に魅力的だ。でも残念ながら、最近はこの国でも電車に乗ることへの不安を感じるようになった。特にまだ小さい息子たちと一緒にいるとき、私は100%安心はできない。みんなも同感だと思うが、無差別殺傷事件が数回起きているからだ。「死んでもいい」と思う犯罪者から自分の身を守るのは、ほぼ不可能だ。
私は1990年代にパリに住んでいたが、95年を中心に何度もテロ事件があって、その年だけでもRER(首都圏高速鉄道)で2回のテロがあった。爆弾やガスなどを使ったテロで、本当に怖かった。近年の日本でそうした方法によるテロはないが、刃物や液体など、誰でもどこでもいつでも買うことができる物によるテロが起きている。
事件が続く日本に伝えたいこと
総選挙の日に起きた京王線の車内での事件もそうだった。これから同じような事件が起きてもおかしくないと思うから、いくつか指摘しておきたい。
1. マスコミは、事件の容疑者の映像を繰り返し放送するのをやめてほしい。目にした大人も子供もトラウマになりやすい。しかもそれは容疑者が最も喜ぶことだ。事件の詳細もあまり説明しないほうがいい。簡単な方法であればあるほど、「私もやろう」と思う人が出てくる。
2. 現場で逃げる人々の映像は警察の捜査にとっては重要な材料だが、ニュースなどで放送しなくてもいいのではないか。そうした場面も、一部の人には悪影響を及ぼす可能性が高い。放送するなら「ショックを与える場面がある」と事前に警告すべきだ。
3. 事件に巻き込まれた人々への精神的サポートが必要だ。テロを何度も経験したフランスは、ケガの有無を問わず、現場にいた人々の精神的サポートに力を入れる。その面で、日本は遅れていると感じられる。
また、なぜそんな事件が起きたのか、どうやって防ぐことができるのかを国民一人一人が考えるべきだと思う。
なぜ希望を完全に失った20代の若者がいるのか。それを探ることが最重要課題だ。平和な時代の民主主義の国で、「仕事や人間関係がうまくいかない」から「死にたい」「死刑になりたい」などと言う人がいるのは、極めて大きな社会問題だ。
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