コラム

コロナ対策に100%の正解はない 「人命か経済か」では図れない「GoToトラベル」の真価

2020年09月11日(金)16時15分
李 娜兀(リ・ナオル)

社会的距離の確保など感染予防策が講じられた東京都内のホテルのロビー Issei Kato-REUTERS

<当初は「社会的距離を置きましょう」と言いながら、「旅行に行きましょう」と言う政府の対応にイライラしたが、自分の体験を踏まえ、今なら関係者の迷いが少し理解できる>

観光支援事業「GoToトラベル」キャンペーンをめぐる日本政府の対応には、7月当時は正直イライラした。「感染者が増えているから社会的距離を置きましょう」と言いながら、「旅行に行きましょう」と言うのは矛盾しているようにしか聞こえない。その上、当時は状況が落ち着いていた韓国の家族、友人から「東京は大変だね。大丈夫?」というメッセージが次々に来る。「日本の対策は、もうちょっとうまくやれないものか」と思ってしまった。

ただ、その後の感染状況や日本の観光業界の大変さを見聞きし、またステイホームの夏休みのつらさを近場の小旅行で癒やす体験をして、今は「GoTo」を巡る関係者の迷いが少し理解できる気がしている。

4月と5月のステイホームも苦しかったが、夏休みのステイホームは気分がさらに沈んだ。普通なら、子供たちと韓国か九州の祖父母のところに出掛けるか、あるいはもっと違う国に出掛けていたはずの楽しい季節だからだ。娘たちも私も旅好きだし、祖父母との交流もとても大切にしている。その機会を奪われた喪失感は大きい。

次女はひたすら『ナルニア国物語』や『指輪物語』などのファンタジー小説に没頭し、読み終わると同じ話の映画を楽しむ、というインドア夏休みを満喫していたが、やはり8月中旬には限界が来た。「プールも遊園地もない夏休みは初めて」とこぼしだしたのだ。

確かにこのまま夏休みが終わってはかわいそうだ。そこで思い切って、近場の遊園地で遊んだ後、都内のプール付きホテルに宿泊することにした。行ってよかったと思う。子供たちは夏休みの思い出ができ、私もつかの間の旅行気分に浸ることができた。

その中で気付いたことがある。プチ旅行で実践できる社会的距離確保には、場所によって大きな差があるということだ。遊園地は難しい。乗り物には間隔を空けて乗ることになっているが、待つ間の行列では距離が取れないし、暑さのせいもあってマスクをあごまで下ろして大声で話す若者も多かった。不安になって結局早く引き揚げた。

一方、ホテルでは不安を感じなかった。他人と近くで接する機会はほぼなく、プールも人数制限を設けていたので、それなりの広さに10人前後しかいない。スタッフのマスク着用や消毒も徹底され、ルームサービスはノックだけして部屋の前に置いていくシステムだった。

【関連記事】第2波でコロナ鬱、コロナ疲れに変化、日本独自のストレスも
【関連記事】外国人もコロナ支援の対象にした日本は、もっとそれをアピールするべき

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

G7、中東情勢が最重要議題に 緊張緩和求める共同声

ワールド

トランプ氏、イスラエルのハメネイ師殺害計画を却下=

ワールド

イスラエル・イランの衝突激化、市民に死傷者 紛争拡

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story