日本の安全神話も崩壊...権威主義国のシャープパワーがいま世界各国で影響力を増している

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<偽情報や世論操作を伴う「シャープパワー」とは何か。新しい概念ではないにもかかわらず、なぜ近年、改めて注目が集まっているのか(シリーズ第1回)>
国際政治における勢力争いは、必ずしも戦車やミサイルを伴うものに留まらない。近年、より見えにくい形で、じわじわと民主主義国家に影響を及ぼそうとする力が台頭している。「シャープパワー」と呼ばれる、権威主義国家が偽情報や世論操作といった形で、他国に影響を及ぼすことを目的に行使する力のことである。
この概念は2017年に米国のシンクタンクである全米民主主義基金(NED)が提唱したものであり、軍事介入や経済制裁による「ハードパワー」や、文化や価値観を通した「ソフトパワー」とは区別される。
権威主義国家によるシャープパワーは、民主主義国家の強みである言論の自由や社会の開放性を利用し、相手国の内政や世論を内側から蝕んでいく。自由で開かれた民主主義国家では、言論の自由が保障されているがゆえに、外部からの偽情報や世論操作を抑止する仕組みを整備することは容易ではない。
一方で、例えば民主主義国家が権威主義国家の人権問題や選挙のあり方について批判的な情報を発信したとしても、言論統制の行き渡った権威主義国家では、そうした声は即座に打ち消されてしまう。ここに、シャープパワーの持つ非対称戦としての側面がある。