日本の安全神話も崩壊...権威主義国のシャープパワーがいま世界各国で影響力を増している
なぜ今シャープパワーなのか
シャープパワーの存在自体は新しいものではない。しかし、近年になってその影響力に改めて注目が集まっている。その要因の一つとして指摘されるのは、技術環境の急速な変化である。
各国において生成AIの利用が広がるなか、ディープフェイクや偽情報の作成・拡散コストは著しく低下した。また、SNSでは過去の検索結果に基づくアルゴリズムによって、利用者の見たい情報が優先的に表示され、ユーザーは自分の興味のある情報だけに囲まれた「フィルターバブル」に閉じこもりがちになる。
結果として、人々が異なる視点や考え方に触れる機会は大幅に減少し、外部から操作された、特定の政治的価値観に基づくナラティブを容易に受け入れるようになってしまう。
二つ目の要因は、民主主義社会の脆弱性が露呈しつつあることである。ここ数年、ポピュリズム政権の台頭や既存政治に対する不信感の増大といった動きが各国で加速している。それに伴い、政府や報道機関、アカデミアといった、これまで一定の社会的信頼を担ってきた存在の影響力が一層低下している。
こうした状況下では、社会の分断が一層深まり、陰謀論や特定の国を敵視するナラティブがSNS上で共鳴・拡散されやすくなる。その結果として、外部の権威主義国家による影響力工作が容易になり、民主主義の根幹が揺らぎかねない状況が生まれている。