生活水準で日本に迫る大国になったポーランドに、トランプ支持の右派大統領が誕生。西欧とウクライナに暗雲
Pro-Trump candidate wins Poland's presidential election - a bad omen for the EU, Ukraine and women

選挙介入もお構いなしでホワイトハウスに大統領候補(当時)のナブロツキ(左)をホワイトハウスに招いたトランプ(5月1日) Joyce N. Boghosian/White House/ZUMA Press Wire
<ポーランドはかつての小国ではない。軍隊の規模で独仏を凌駕し、生活水準は日本を追い抜く勢い。その右傾化はヨーロッパの未来を左右する>
ポーランド大統領選挙の決選投票は、EU寄りの民主主義勢力にとって苦い結果となった。
愛国主義を掲げドナルド・トランプ米大統領を支持する歴史家のカロル・ナブロツキが、リベラル派で親EUのワルシャワ市長ラファウ・チャスコフキを僅差で破った。得票率はナブロツキが50.89%、チャスコフキが49.11%だった。
ポーランドの大統領はほとんど権力を持たないが、法案に拒否権を行使することができる。ナブロツキ勝利の影響はポーランド国内のみならず、ヨーロッパ全体で大きく感じられることになるだろう。
保守政党「法と正義」の支持を受けるナブロツキが今後、この拒否権を盾にしてドナルド・トゥスク首相率いる「市民プラットフォーム」主導の連立政権による民主的な政治改革を阻もうとすることは間違いない。
ナブロツキの大統領就任によって、2027年の総選挙で「法と正義」が政権に返り咲く可能性が高まりそうだ。そうなれば「法と正義」の前政権(2015年~2023年)が推し進めていた反民主的な改革が固定化される可能性がある。
そこには例えば、政権が判事の任命権や最高裁の人事権を実質的に掌握し、司法の独立性を弱体化させる改革も含まれていた。
ナブロツキの勝利は、ヨーロッパ全土のトランプ派や反リベラル派、および反EU派の追い風になる。EUやウクライナや女性たちにとっては悪いニュースだ。
For the past three decades, Poland has shown how much a country can achieve with good economic policy and European integration. But if it elects a hard-right president, it risks throwing it away https://t.co/YuU1hD2W65 pic.twitter.com/OYhwtFnWZr
— The Economist (@TheEconomist) May 22, 2025
大国化するポーランド
第二次世界大戦後の長きにわたり、ヨーロッパにおけるポーランドの影響力は限定的なものにとどまっていた。
だが今は違う。2004年にEUに加盟して以降、ポーランド経済は急成長を遂げている。現在はGDPの約5%を国防費に充てており、これはロシアがウクライナへの本格侵攻を開始した2022年当時のほぼ2倍にあたる。
今はポーランドの軍隊の規模はイギリス、フランス、ドイツを上回り、購買力平価で調整した生活水準も日本を追い抜く寸前だ。
イギリスがEUを離脱していることもあり、EUの重心はポーランドがある東側に移りつつある。人口3700万人を擁する軍事・経済大国として台頭するポーランドの動向は、今後のヨーロッパの未来を左右することになるだろう。
ウクライナのNATO加盟に反対
ヨーロッパにおけるポーランドの新たな地位が最も顕著なのが、ウクライナ戦争においてヨーロッパ防衛のために同国が果たしている役割の重要さだ。
5月10日にウクライナの首都キーウで開催されたウクライナ支援の「有志連合」首脳会議でも、ポーランドは大きな存在感を示した。トゥスクはフランス、ドイツ、イギリスなどヨーロッパの主要国の首脳たちと共にこの会議に出席し、ウクライナと同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領への支援強化を表明した。
だが今後は、ポーランドによるウクライナへの無条件の支援は危機にさらされる可能性がある。ナブロツキはポーランド国内にいるウクライナ難民を敵視し、ウクライナがEUやNATOなどヨーロッパを中心に構成される機関に加わることに反対しているからだ。
ナブロツキは選挙期間中、トランプ政権からの支援を受けていた。クリスティ・ノーム米国土安全保障長官は、最近ポーランドで開催された保守政治活動集会(CPAC)で次のように発言した。
「ドナルド・トランプは私たちの力強い指導者だ。皆さんがカロル(・ナブロツキ)をこの国の指導者に選べば、皆さんも同じぐらい力強い指導者を持つチャンスがある」
トランプは、ナブロツキがまだ候補者だった時に彼をホワイトハウスの大統領執務室に招待した。外国の選挙に介入しないというアメリカの通常の外交慣例からは大きく逸脱した行為だ。
President Donald J. Trump welcomes Polish presidential candidate Karol Nawrocki to the Oval Office pic.twitter.com/EzjPgygMxI
— The White House (@WhiteHouse) May 2, 2025
ナブロツキは、他の世界のMAGA(アメリカを再び偉大に)派政治家たちほどロシア寄りではない。それは主にロシアに近いポーランドの地理と、両国の厳しい歴史的背景によるものだ。
ポーランドは、ロシアやソビエトの軍隊によって繰り返し侵略を受けてきた。またウクライナと同様、ロシアの衛星国であるベラルーシやバルト海沿岸のロシアの飛び地で軍事拠点のカリーニングラードと国境を接している。
筆者は2023年にポーランドで現地調査を行った際、ワルシャワからスバウキ回廊を通ってリトアニアの首都ヴィリニュスまで車で移動し、これらの国々の国境の近さを体感した。
スバウキ回廊はポーランドとリトアニアの間にある全長100キロメートルの戦略的に重要な国境地帯。この回廊は、バルト三国をNATOおよびEUの南側とつなぐ要衝で、もしロシアがこの短い回廊を軍隊で遮断すれば、バルト三国はヨーロッパから切り離され、孤立する。NATOのアキレス腱と呼ばれている。
ポーランドの保守的なナショナリスト政治家たちは、ハンガリーやスロバキアの政治家ほどロシアに対して融和的ではない。例えばナブロツキは、ウクライナへの武器供与の打ち切りには反対だ。
しかしロシアからの防衛面以外では、ウクライナにより敵対的な姿勢を取るだろう。選挙戦中、ナブロツキは「ゼレンスキーはポーランドに対してひどい扱いをしている」と発言し、トランプ自身が用いたような言葉を繰り返した。
学歴と性別で割れた投票先
今回の選挙は高い関心を集め、投票率はほぼ73%という記録的な数字となった。
票はナブロツキとチャスコフキでほとんど真っ二つに割れた。
チャスコフキは、ポーランドの厳しい中絶法の緩和を訴えた。この中絶法は「法と正義」政権のもとで事実上禁止されていた。チャスコフキはLGBTQ+カップル向けのパートナーシップ制度の導入も支持していた。
ナブロツキはこれらの変化に反対で、法案が提出されれば拒否するだろう。
決選投票前の世論調査では一貫して接戦が予想されていたが、投票集計中に発表されたイプソスの出口調査は、国が直面する社会の分断を浮き彫りにした。
世界の他の最近の選挙と同様に、女性や高等教育を受けた層は進歩的なチャスコフキを支持し、男性や低学歴層は保守的なナブロツキを支持した。
2週間前のルーマニア大統領選挙で、EU寄りのリベラル派候補が予想外の勝利を収めたことから、EU支持勢力はポーランドでも同様の結果を期待していた。
しかしそれは夢物語に過ぎなかった。ヨーロッパのリベラル派は今後、東方に生まれつつある新たな大国に誕生したトランプ型の右派指導者との困難な関係に悩まされることになりそうだ。
Adam Simpson, Senior Lecturer, International Studies, University of South Australia
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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