最新記事
アメリカ

ウェブを駆使するテロ組織...生成AIが生み出す「新時代のプロパガンダ」

How ISIS and Al-Qaeda Are Using AI to Target American Jews

2025年2月12日(水)13時00分
モニカ・セイガー

生成AI利用で「身元を隠す」ことが安易に

2024年10月7日のハマス攻撃の1周年を迎えた後、Coalition for a Safer Webは、ISISやアルカイダが運営する多数のウェブサイトを確認。そこには、生成AIを活用した動画やプログラム、さらにはガザ地区の破壊や負傷したパレスチナ人の画像を用いたミームが掲載されていた。このようなコンテンツは、アメリカ国内のローンウルフ型のテロリストを引き付け、イスラエルの支持者、特にユダヤ人コミュニティに対する報復行為を扇動するために操作されているという。

2024年半ば以降、ISISとアルカイダはプロパガンダ活動を強化し、生成AI技術を取り入れていることが、ギンズバーグ氏とそのチームの調査で判明した。AIを活用することで、極端に洗練されたプロパガンダが作成され、さらにアルゴリズムの操作やSNS上のコンテンツへの侵入が可能となり、反ユダヤ的な行動を扇動する役割を果たしている。

「生成AIは、ISISとアルカイダが互いに覇権を争う戦略の一環として悪用されている」とギンズバーグ氏は本誌に語る。「彼らはガザ戦争を利用し、アメリカ国内に潜伏する支持者を扇動・勧誘しているが、組織のメンバーを直接アメリカに送り込むつもりはないようだ」

さらに、Coalition for a Safer Webは、AIソフトウェア開発者やコンテンツ制作者を募集する「求人広告」まで発見した。生成AIを活用したニュース番組は、アメリカ英語の音声をクローンし、若年層をターゲットにしたコンテンツを作成。これにより、若年層が影響を受け、潜在的なテロ攻撃を引き起こす可能性があると懸念されている。

また、生成AIの利用によって、ISISやアルカイダのウェブサイトは身元を隠しながら活動できるようになっているという。

Coalition for a Safer Webの調査によれば、『The Wolves of Manhattan(マンハッタンの狼)』『Mujahideen in the West(西洋のムジャヒディン)』『Voice of Khurasan(ホラーサーンの声)』といった出版物には、サイバー・プロパガンダの活用方法を解説するマニュアルやハウツーガイドが掲載されている。

ギンズバーグ氏は、TikTok、Instagram、X(旧Twitter)、YouTubeといったプラットフォームが「ハニートラップ」の役割を果たしていることを指摘。「これらのプラットフォームではコンテンツの監視が終了しているため、ISISやアルカイダが反ユダヤ的なコンテンツをより容易に拡散できる」と警鐘を鳴らした。

「新たなソフトウェア技術が登場するたびに、それが暗号化であれ、主要SNSのコンテンツ管理の終了であれ、テロ組織はあらゆる手段を駆使してそのシステムの穴を突こうとする」とギンズバーグ氏は述べた。「今回特に厄介なのは、我々が傍受したコンテンツが直接特定の発信源へと結びつく証拠を残さないことだ」

さらに調査では、「ターゲット特定パッケージ」と呼ばれるデータが発見された。そこには、ニューヨーク、マイアミ、シカゴ、デトロイトといったアメリカの都市にあるユダヤ人センターの写真や動画に加え、シドニー、メルボルン、トロントのユダヤ人施設の情報も含まれていたという。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

LSEG、第1四半期収益は予想上回る 市場部門が好

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中