最新記事
音楽

なぜイエスもモーツァルトも「ロックを歌う」のか?...大ヒット作品からロックの持つ「意味」に迫る

2025年1月14日(火)16時36分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

劇中で、母を亡くす前後のナンバー〈残酷な人生〉を取り上げてみよう。このナンバーの主旋律の前には、2015年の再演で、前置きとなる導入部分が追加された。その導入では、モーツァルトの《ピアノ協奏曲第20番ニ短調》を中心とし、《ピアノ・ソナタ第3番変ロ長調》と《ピアノ・ソナタ第12番ヘ長調》が芝居の間にはさまれる。

悲劇的な切迫感をともなった《ピアノ協奏曲第20 番》第1楽章のシンコペーションにのせて、ヴォルフガングが「7 人しか客が来なかった」と嘆く。母アンナ・マリアも客席についている。今度は幼少期の姿をしたヴォルフガングが《ピアノ・ソナタ第3番》を弾いている。客は4人になっている。

ふたたび《ピアノ協奏曲第20番》にあわせて「4人」であることを嘆く。そして母に向かって自分の音楽はいずれ理解される、と強がってみせる。しかし、《ピアノ・ソナタ第12番》を弾くと、客はひとりもいなくなる。そして、母も死んでおり、ヴォルフガングは無理解と孤独に打ちのめされ、〈残酷な人生〉を歌いはじめる。

このナンバーの機能は「モノローグ」で、重いビートとベースの響きが印象的なロックだが、ひじょうに細かな変化をする。その細部にはふみこまないでおく。

このナンバーで確認しておきたかったことは、まずはモーツァルトの「クラシック」の作品にのせた「強がり」があったあとで、「ロック」によってモノローグの孤独と絶望を歌う、ということだ。ロックの意味はなにか。

孤独なモーツァルトが変化するのは、〈僕は特別〉だ。1999年の初演ではなく、2001年のハンブルクでの再演と2015年のウィーンでの再演で〈ザウシュヴァンツ・フォン・ドレッケン〉から差し替えられたナンバーである。

ここでヴォルフガングはグランド・ピアノの上に乗ってエレキギターを奏でながら(つまりナンバーの機能は「ショー」だ)、自分をしばりつけようとするアルコ伯爵にむかって悪態をつく。この悪態は、モーツァルトが手紙で好んで書いたスカトロジカルなジョークがもとになっている。

そして、ヴォルフガングの歌唱に、民衆が手を叩いてリズムをとりながら、この「即興ライブ」を楽しんでいる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

関税の影響を評価するのは時期尚早=FRB金融政策報

ビジネス

米株式ファンドから大幅に資金流出 中東緊迫化と関税

ビジネス

フィラデルフィア連銀製造業指数、3カ月連続マイナス

ワールド

IAEA事務局長「最大限の自制を」、イラン核施設へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    全ての生物は「光」を放っていることが判明...死ねば…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    マスクが「時代遅れ」と呼んだ有人戦闘機F-35は、イ…
  • 8
    「巨大キノコ雲」が空を覆う瞬間...レウォトビ火山の…
  • 9
    「まさかの敗北」ロシアの消耗とプーチンの誤算...プ…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中