なぜイエスもモーツァルトも「ロックを歌う」のか?...大ヒット作品からロックの持つ「意味」に迫る
〈僕は特別〉は、内面の「孤独」を自分と自分の分身にぶつけるそれまでのナンバーに対して、民衆の同意(つまり「ユニティ」の機能)を得た、新たな人生の局面が開けた瞬間をあらわしている。伯爵に悪態をついて怒らせる以上に、ヴォルフガングが民衆の作曲家なのだと自覚する。
これ以降のナンバーで、モーツァルトが民衆の「ユニティ(※)」をともなうことはない
(※)登場人物がいっせいに同じ歌とダンスを行うこと。全体で同じ歌詞、同じ旋律、同じダンスを表現することで、舞台上の「世界観のあらわれ」ないし、意思や思想の「共有」か「同意」をあらわす。(本書第3章で詳しく説明されている)
それでは、この《モーツァルト!》がロック・ミュージカルとして成功し、受けいれられたのはなぜか。それはロックという音楽の形式が、つねに権力や権威にたいするアンチテーゼとして存在してきたからだろう。孤独を叫ぶのもロックなら、貴族社会への反抗的態度もロックだ。
既存の社会構造のなかにいられない人間という天才ヴォルフガングをあらわすのに、ロックはじつにふさわしい形式だった。
※第1回はこちら:ミュージカルは「なぜいきなり歌うのか?」...問いの答えは、意外にもシンプルだった
※第2回はこちら:『レ・ミゼラブル』の楽曲を「歩格」で見てみると...楽譜と歌詞に織り込まれた「キャラクターの心」とは?
『ミュージカルの解剖学』
長屋晃一[著]
春秋社[刊]
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長屋晃一
1983年生まれ。愛知県出身。國學院大學文学部卒(考古学)。慶應義塾大学大学院文学研究科にて音楽学を学ぶ。博士課程単位取得退学。修士(芸術学)。現在、立教大学、慶應義塾大学他で非常勤講師。19世紀のイタリア・オペラにおける音楽と演出の関係、オペラ・音楽劇のドラマトゥルギーについて研究を行っている。「ヴェルディにおける音楽の「色合い」:《ドミノの復讐》の検閲をめぐる資料から」(『國學院雑誌』、2023年)、「音楽化される川端康成:歌謡曲からオペラまで」(共著『〈転生〉する川端康成』、2024年)他。また、研究に加えて、舞台やオペラの脚本も手掛けている。オペラ《ハーメルンの笛吹き男》(一柳慧作曲、田尾下哲との共同脚本、2013年)、音楽狂言『寿来爺(SUKURUJI)』(ヴァルター・ギーガー作曲、2015年)他。
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