静岡の希少なお茶を使って新しい価値を創出し、日本茶の再構築でグローバルでの外貨獲得を狙う
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静岡県産のお茶を使ったカクテルキットを開発した株式会社dozo代表取締役の三浦弘平氏(撮影:長谷康平)
<多様な地域資源を活用したビジネス創出を支援するための起業促進プラットフォーム「INACOME(イナカム)」。この度、全国の起業家たちがビジネスアイデアを競う「INACOMEビジネスコンテスト2025」が開催され、最優秀賞に「ZEN TEA BREW 日本初のDIYカクテルキット」が選ばれた。地方経済の活性化を促す新たなビジネスモデルとして期待が寄せられている>
海外で日本茶の価値を高めるインフュージョンカクテル
静岡県の代表的な農産物であるお茶。国全体の生産量は、長期的には減少傾向にある一方で、2025年の緑茶輸出額は前年比98.1%増の721億円と、過去最高額を6年連続で更新した。輸出先は全体の約4割をアメリカが占め、ここに着目したのが株式会社dozo代表取締役の三浦弘平氏である。ZEN TEA BREWというブランド名で、静岡県産のお茶を材料にしたカクテルキットを開発。INACOMEの審査では、外貨を獲得するためのお茶の商品であることが評価された。
「静岡県のお茶の生産量は最盛期の4分の1にまで減少し、海の向こうで日本茶の価値を高めたいと思ったのが起業のきっかけ。海外のニッチな市場でマーケットインできるお茶の製品はないだろうかと探していたところ、辿り着いたのがインフュージョンカクテル。アメリカではインフュージョンカクテルを楽しむためのカクテルキットが売られていて、これならお酒を含まないため輸出もしやすい」と三浦氏は振り返る。
インフュージョンカクテルとは、ジンやウォッカ、ウイスキーといった蒸留酒に、茶葉やドライフルーツ、スパイスなどを漬け込み、素材の香りや風味をアルコールに移すカクテルを指す。お茶をベースにしたアルコール飲料であるティーアルコールの市場は、欧米を中心に急成長を遂げており、グローバルで2兆円規模に成長。ZEN TEA BREWの大きな強みは、「アルコールに浸けることによって、お茶に含まれるカテキンやテアニンなどの有効成分の抽出効率が、水やお湯で抽出するのに比べて140%以上になる」ことだという。

ZEN TEA BREWのフレーバーは4種あり、「闘茶師の一撃 柚子緑茶ハイボール」には釜炒り緑茶と白茶を使用。お茶のまろやかな旨味に和山椒のスパイシーさとゆずピールの爽やかな香りが際立つ。「苺と薔薇と紅茶 アフタヌーンカクテル」には菩提酸茶と和紅茶が、「真夜中の無花果 スモークカクテル」には燻製紅茶が、「大人時間の焙煎 ピーチウーロン」には焙煎烏龍が、それぞれ使われている。緑茶だけでなく、さまざまな種類のお茶がセレクトされている点が興味深い。

「どれも静岡県産のお茶の生産量のうち、0.003%しか存在しない希少なもの。静岡県は2024年に荒茶生産量が、2025年に茶の産出額が共に鹿児島県に抜かれて全国トップから陥落。生産量や産出額ではなく、静岡県の強みは茶農家のクラフトマンシップによって独自につくられたお茶であることを表現した結果」とその理由を語った。

アメリカ向けにローカライズした日本茶製品とは
静岡市で生まれ育った三浦氏はカナダの高校を卒業後、帰国して東京で洗濯代行サービスを立ち上げたベンチャー企業に就職。創業メンバーとして活躍し、専務取締役まで務めたものの、海外での活躍を目標にハワイの大学へ進学した。卒業後は、ハワイ支社を立ち上げようとしていたフリーマガジンを発行するカリフォルニアの会社に就職。ハワイ支社で2年ほど働いた後、カリフォルニアの本社に移り、その後に日本の食品を輸入販売する商社に転職した。最終的に高校も含めた海外生活は13年に及んだ。
アメリカに住んで感じたのは、「日本のプレゼンスがどんどん低くなり、中国や韓国に負けていると感じることも多くなった。日本にはいいものがいっぱいあるのに、まったく発信できていない」ことだった。折しも食品商社に勤めていたとき、スーパーには多くの種類の日本茶が売られているが、価格帯で選ばれているにすぎず、茶農家のこだわりが伝わらない現状に何度も遭遇した。「お客様からは、日本茶を飲みたいけど、どう選べばいいのか分からないとよく聞かれた」ことが、アメリカでの日本茶の立ち位置を表していた。
コロナ禍で帰国を決心した三浦氏は、日本で働きながらシングルオリジンのお茶をECで海外に販売する事業に挑戦したが、思うような結果は得られなかった。そこで、緑茶のアメリカへの輸出が伸びている要因を調べてみると、核心的なことが分かった。緑茶単体でお茶本来の渋みや旨味を味わう人は少数派で、抹茶ラテのように甘さやミルクを足して飲みやすくしたものが多くの人々に受け入れられていたのである。

「寿司がアメリカでポピュラーになったのは、アボカドを使ったカリフォルニアロールが生まれたから。独特の切り方が特徴的なLAカルビ(骨付きカルビ)は、ロサンゼルスのコリアンタウンで生まれたものだし、テックスメックスはメキシコ料理をアメリカ人がローカライズした料理。僕ら日本人は、日本のものはそのまま海外に持っていかないといけないと思いがちだが、グローバルに広めようと思うと、現地の嗜好に合わせる必要があることに気付いた。抹茶は健康志向によって広まったのに、甘みを加えたものが売れているのがアメリカの面白いところ」
実際にZEN TEA BREWの各フレーバーには、金平糖やドライフルーツで甘みが加えられている。そして、2025年11月にカリフォルニアで開催された日本食の見本市であるジャパンフードエキスポに出展した際は、10時間で30万円の売上を達成。「インフュージョンカクテルのマーケットはニッチだが、会場でアンケートを取ったところ、認知度は100%。実際に自分でつくったことのある人も約40%いた」と三浦氏は大きな手ごたえを感じた。
茶畑が生み出す美しい景観や豊かさにも価値がある
現在、三浦氏は静岡市葵区の茶農家に就農しながらZEN TEA BREWのビジネスを進めている。カクテルキットは日本のクラウドファンディングで成功を収めたところで、これからアメリカのクラウドファンディングを経て、KANPAIという商品名で一般発売を予定。「ひとりや少人数で飲むお茶から、皆で乾杯して飲むお茶へ」という意味が込められている。また、茶農家の思いをダイレクトに伝えるためにも、販売ルートは自社のECをメインに考えている。
「KANPAIの売上は5年以内に4億円が目標。数字の根拠は、生産量の少ないプレミアムなお茶を使っているので、ある程度売れると生産が追い付かなくなるから。そのため、ティーバッグになったIPPUKUという、大量生産に向けたノンアルコールカクテルの商品化を静岡県立大学の先生と一緒に取り組んでいる。菊川市とは、お茶の生葉を生鮮食品として流通させる取り組みを行っており、これは海外向けというよりインバウンド向け」と今後の展望を語った。他にも富士市とは、ほうじ茶の商品開発を行うなど、複数のプロジェクトが同時進行している。

実は三浦氏の最終的な目標は、グローバルで日本茶の価値を高めることだけではない。海外の人々に静岡県まで足を運んでもらい、お茶の旨味や香りを堪能することに加え、生葉の天ぷらやおひたしなどで食として体験し、美しい茶畑による景観を楽しんでもらうことを重視。つまり、ティーツーリズムのようにお茶が関わる場面全体をマネタイズすることを見据えている。

日本茶の歴史を振り返ると、数百年のサイクルでイノベーションが起こっており、1191年に栄西禅師が中国から茶の種を持ち帰り日本各地で栽培が開始。1580年代には千利休がわび茶を完成させ、現代に続く茶道の礎を築き、1738年には永谷宗円が新しい製法によって、鮮やかな緑色と甘味のある煎茶を完成させた。「次は2030年頃に僕らがイノベーションを起こして、300年ぶりに新しい価値を生み出したい。TeaでトランスフォーメーションするT(ea)Xの実現を目指す」と三浦氏は力強く語った。

三浦 弘平(みうら こうへい)
株式会社dozo代表取締役。1985年静岡県生まれ。カナダの高校を卒業後、帰国してベンチャー企業に就職。その後、アメリカの大学を卒業し現地で出版業などを営む会社を経て、日本の食品を扱う商社に転職。この時に、アメリカでの日本茶を取り巻く状況に課題を見出す。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、2023年に株式会社dozoを設立。海外に日本茶を広めるために、お茶をお酒で抽出するカクテルキットを開発した。現在は、静岡市の茶農家に就農しながら、お茶でトランスフォーメーションを実現する「T(ea)X」をテーマに掲げ、海外で日本茶の価値を高めることに挑戦している。
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