米通商代表部(USTR)が日本を含む国・地域に新たな追加関税を課す案を発表したことについて、日本政府内に目立った反発の動きはなく、様子見の声が広がっている。政府関係者は現時点で問題視しない姿勢を強調。赤沢亮正経済産業相も懸念の払しょくに奔走した。政府は昨年7月の日米合意で示された関税率の「防衛ライン」が、今後も維持されると見ている。ただ、専門家からはトランプ政権の不確実性を危惧する意見も出ている。

<「合意を超える課税ないと確認済み」>

「日本だけがターゲットにされたものではない。現時点ではあまり大きな問題だとは思っていない」。日米の関税交渉に携わってきた日本政府関係者は4日、ロイターの取材にこう述べた。USTRが強制労働によって製造されたモノの取引を抑制できていないなどとして2日に公表した通商法301条に基づく最大12.5%の追加関税案について、日本経済にとって大きな打撃となり得るとは考えていないとの姿勢だ。

背景には2025年7月に締結した日米合意がある。米国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠とした追加関税率を15%に引き下げ、もともと一般関税率が低い品目については追加関税を含めて15%に引き上げるなどとする内容だ。

赤沢氏は3日、自身のソーシャルメディア「X」で、ラトニック米商務長官とオンライン会談に臨んだことを明かし、「日本に対して昨年の合意を超える追加関税が課されないことを米側に確認済み」とした上で、USTRの追加関税案を伝える報道を念頭に、「一部の報道を見た皆様、ご心配なく!」とも記した。

尾崎正直官房副長官も3日午後の記者会見で、「(USTRの発表は)最終的なものではないと認識をしており、コメントは差し控える」と述べた。

<「7月に追加関税ゼロとは考えにくい」>

IEEPAを根拠とした追加関税は今年2月に米連邦最高裁が無効と判断し、停止されている。現在は「代替措置」として、通商法122条に基づき10%の追加関税が課されている状況だ。

この10%関税には法律上の期限があり、7月24日に課税できなくなる。ただ、日本政府はあくまで昨年の日米合意を「防衛ライン」とする構えだ。経産省関係者は、トランプ米大統領が関税をめぐって駆け引きをしようとする国に対し、「これまでよりもはるかに高い関税」を課す可能性を示唆している点に触れ、「7月の期限切れをもって米が追加関税をあきらめるとは考えにくい」とした上で、「現状では日米合意をしっかり確認し続けることが重要だ」と語った。

もっとも、USTRが新たな追加関税案の根拠とする「強制労働で製造されたモノの取引の抑制」について、政府はすでに「ガイドライン」や「行動計画」を策定するなど、対策を講じているとの立場だ。前出の経産省関係者はUSTRの主張についての反論は避けつつ、「日本が何もしていないわけではない」と述べた。

<「日本への追加課税の不確実性残る」>

専門家からは懸念が示されている。野村総研エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、トランプ政権が従来から通商法301条に基づく関税措置に言及してきたため、USTRによる今回の追加関税案は「サプライズではない」と言う。その上で、現行の122条に基づく10%に2.5%が上乗せされる場合は、「国内総生産(GDP)への影響は0.01%程度でほとんどない」と試算する。

ただ、USTRが追加関税案の理由に「強制労働」を挙げた点に着目。「過剰生産が理由であれば対象国は中国や欧州連合(EU)となり、例えば対中関税15%に対して日本は10%といった着地点が想定された」と指摘。「強制労働は米国のこじつけのような理由だが、日本には強制労働を禁じるしっかりした法律がないため、追加関税が課される不確実性は残る」と見る。

トランプ氏が昨年の日米合意を順守し続ける保証もなく、「赤沢経産相は日米合意にある15%以上の課税はないとしているが、今回は通商法301条が根拠とされている。必ずしも15%が上限になるとは限らないのではないか」と危惧した。一方で、「トランプ政権の関税政策は逆風にさらされている。今回の追加関税案も違法・違憲判決が出る可能性がある」とした上で、「まずは事態を冷静に見守るべきだ」と語った。

(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)

[ロイター]
トムソンロイター・ジャパン
Copyright (C) 2026トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます
【関連記事】
ニューズウィーク日本版 サッカーW杯 日本が優勝する日
2026年6月9日号(6月2日発売)は「日本が優勝する日」特集。

Jリーグ発足後、飛躍的に進化した日本サッカー。W杯の頂点に挑み世界を驚かせる時が来た

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら
※画像をクリックするとアマゾンに飛びます