最新記事
未来都市

SF映画の世界...サウジ皇太子が構想する直線型都市は「未来の街」か「監視社会」か

A TALE OF TWO MEGALOPOLISES

2024年6月18日(火)18時29分
ヤンウェルナー・ミュラー(米プリンストン大学教授〔政治学〕)

newsweekjp_20240618032754.jpg

エジプトが首都カイロの東50キロに建設している新しい行政首都 KHALED ELFIQIーMATRIX IMAGESーREUTERS

古くて新しい「直線型都市」

直線型都市のアイデア自体は、新しいものではない。

1800年代にはスペインの都市計画者アルトゥーロ・ソリア・イ・マータが、このアイデアを先駆けて導入。路面電車の線路に沿って都市を建設し、通勤時間を短縮して人々の幸福度を最大限に向上させる構想を打ち立てた。

20世紀前半にはアメリカの都市計画者エドガー・シャンブレスが、アメリカ大陸を横断する直線型都市の設計を考案。同様の構想はソ連でも持ち上がっていた。

これらのプロジェクトは、いずれも実現していない。確かに計画は魅力的だった。移動手段は効率的だし、都市を拡張する際も容易にできるだろう。

しかし無秩序に広がることを防ぐために、直線型都市は極めて高いレベルの管理を前提としている。そこで暮らす人々も、ルールに従うことが求められる。

ザ・ラインは、60年代の実験的建築グループ「アーキグラム」や「スーパースタジオ」が開発したアイデアも取り入れている。

いずれも前衛的な設計で知られたグループで、前者は巨大な金属製の脚で地上を自由に移動できる構造物「ウオーキング・シティー」、後者は砂漠などの中に建てられた直線型の構造物「コンティニュアス・モニュメント」が有名だ(こちらは不気味なほどザ・ラインに似ている)。

だがアーキグラムやスーパースタジオの青写真は、アメリカの都市社会学者マイク・デービスが言う「夢を実現する都市主義」に興味を持つ専制君主や投資家に気に入られるために描かれたわけではない。

むしろその意図は反体制的であり、消費者資本主義に批判的だ。例えばコンティニュアス・モニュメントは、過度の都市化が自然破壊を引き起こす危険性を当時から提起していた。

スーパースタジオの共同創設者アドルフォ・ナタリーニは71年、「デザインが単に消費を誘うものなら、われわれはデザインを拒絶すべきだ。建築が単にブルジョア階級の所有権と社会のモデルを体系化するものなら、われわれは建築を拒絶すべきだ」と語った。

スーパースタジオは反消費主義と反資本主義の下に、反デザイン・反建築を掲げていた。

それでも60年代の反体制文化の動きとザ・ラインの間には、驚くべき連続性がある。NEOMに携わっているイギリスの建築家ピーター・クックは、アーキグラムの創設者だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中