最新記事
未来都市

SF映画の世界...サウジ皇太子が構想する直線型都市は「未来の街」か「監視社会」か

A TALE OF TWO MEGALOPOLISES

2024年6月18日(火)18時29分
ヤンウェルナー・ミュラー(米プリンストン大学教授〔政治学〕)
「ザ・ライン」の完成予想図

「ザ・ライン」の完成予想図。巨大な壁に挟まれた幅200メートルの都市が170キロにわたって伸びている CHOI YURIM/SHUTTERSTOCK

<全長約170キロメートル、幅約200メートル──砂漠の中に都市を造り、鏡貼りの壁で覆う「ザ・ライン」計画。AIが運営する世界初の街を目指すというが、全面的な監視による独裁体制の強化が懸念される>

中東で今、2つの規格外の都市の建設が進んでいる。

1つはエジプトの新しい行政首都で、10年近く前から第1弾の移住が始まっている。まだ名前のないこの都市には、中東最大のコプト教会やエジプト最大のモスク(イスラム礼拝所)、さらには古代エジプトにヒントを得た巨大な建造物が立ち並ぶ。

もう1つはサウジアラビアが計画しているもので、こちらははるかに独創的だ。

砂漠の中に造られる「ザ・ライン」と呼ばれる未来都市である。そのビジョンは既に国際的に広く知られており、国の再興に注ぐ壮大な野心の表れとも、独裁体制の残虐な現実から国際社会の注意をそらす取り組みともいわれている。

この2つの都市は、21世紀の独裁国家がその正統性を裏付けるための全く異なった戦略を示している。

テクノクラートから従来型の独裁者となったエジプトのアブデル・ファタハ・アル・シシ大統領は、国の近代化を約束している。20世紀の多くの官僚主義的な独裁体制と同じだ。

対照的なのが、サウジアラビアの事実上の国家元首であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子だ。

彼は新都市構想で、ある種のSF的ファンタジーを推し進めているだけでなく、国際的で反体制的な感覚さえ持つ人々に巧みに訴えかけ、国内外でのサウジアラビアのイメージを向上させようとしている。

ザ・ラインの提唱者であるムハンマドは、自身のイメージアップが急務だと理解しているようだ。国際社会では今も彼は、2018年にトルコのイスタンブールのサウジアラビア総領事館で起きた反体制ジャーナリストのジャマル・カショギ殺害事件との関連を疑われている。

サウジアラビアのイメージを変えるため、ムハンマドは従来型の近代化にとどまらない取り組みを行っている。なかでも最大の驚きがザ・ラインだ。

全長約170キロ、幅約200メートルの細長い都市で、高さ約500メートルの鏡貼りの壁が挟み込むように立っている。住みやすさと効率性を最大限に追求すると、都市は1本の線(ライン)になるのだという。これは5000億ドルを投じて北西部で進む未来都市計画NEOMの一環だ。

newsweekjp_20240618032627.png

ILLUSTRATION BY CORONA BOREALIS STUDIO/SHUTTERSTOCK

ザ・ラインは最高のエコシティーとして宣伝されている。自動車を全く走らせず、二酸化炭素の排出量はゼロ。都市全体を網羅する高速鉄道を地下に造る。

昨年のベネチア・ビエンナーレ国際建築展でのサウジアラビアの展示によれば、ザ・ラインはムハンマドが掲げる「人間の住みやすさの向上」を実現する公共空間だ。

この展示では、イギリスの著名な建築家デービッド・アジャイから欧州中央銀行を設計したオーストリアの設計事務所コープ・ヒンメルブラウまで、世界的な建築家たちが作ったザ・ラインの設計案が紹介された。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ビジネス

米マスターカード、1─3月期増収確保 トランプ関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中