最新記事
インタビュー

車いすユーザーの声は「わがまま」なのか? 当事者に車いす席の知られざる実態を聞く

2024年3月25日(月)11時30分
小暮聡子(本誌記者)



――目に見える数がマイノリティーでなくなれば、もっと自由に外に出られるようになる?

そう思う。「めっちゃ車いすの人いっぱいいるじゃん!」となったら、変わるだろう。なので、外出しやすい環境を整えていくことはとても重要だし、障がいがある人達に対しても、自分たちがもっと外に出ることによって、みんなに、社会の側に慣れてもらうのも良いよねと言っている。

今回の映画館の件は、自分はその場にいたわけではないので何があったのかは分からないが、一番得策な方法は何かといったときに、やはり建設的な対話に尽きると思う。

 
 


今回の件がネガティブなもので終わってしまうのではなく、今後、よりアクセシブルな環境を創っていくためにもハード面の整備や、人の支援の方法について当事者と事業者が建設的な対話を重ねていくことが必要だと思う。方法としては、KNOW MORE, DO MORE, TELL MORE, つまり「もっと知って、もっと行動しよう、そしてもっと伝えよう」を提案したい。

各事業者がアクセシビリティに関する相談窓口や改善要望窓口、リクエストフォームなどを設けて、障がい当事者から課題や意見、改善のアイデアがあればぜひください、と「収集」する、つまり知ることから取り組むと良いと思っている。そうしたプラットフォームを作って意見を収集したら、その後は、当事者を巻き込んで、共に対応策を作り上げるという形が理想だ。

スモールスタートを意識して、できることからまずやってみる。その上で中長期の目標を決めていく。当事者を巻き込んで一緒に作った対応策で改善したら、その改善事例を、なぜ・どのように改善したのかというストーリーを含めて、事業者と当事者が力を合わせて広く社会に伝えていく。そうすることで、世の中に潜む「社会障がい」やその解消方法を、あらゆる人が知るきっかけとなるはずだ。

事業者側がインクルーシブデザインを活用し、障がい当事者と一緒に取り組むことで、障がい者は事業者にとって単なる課題提起者でなく自分たちの味方にすらなる。そうやってファン化させると、当事者たちは「ここのシアターめちゃくちゃ使いやすかったよ」と、当事者コミュニティーにポジティブな事例を投稿して、みんなが来るようになる。

どういう風に改善されたのかを事業者と当事者が伝えることによって、他の事業者の皆さんのところにも同じような社会障がいがあるかもしれませんね、という問いかけにもなる。

障害者差別解消法も、これからは事業者さんも義務ですよとするだけでなく、本当は、街中にいる人たち全員がそういう意識を持つということがゴールなのだと思う。アメリカのADAは一般の人の意識に浸透しているけれど、日本はまだまだ過渡期で、法律が変わりますよと言っても一般的にはほとんど知られていない。

そんなときこそ、事業者側にだけ研修をするのではなく、当事者側にも伝え方や持つべき心構えを研修することを勧めたい。伝え方一つで、人の感情は良い方向にも悪い方向にも動くものだ。やれることは、事業者側にも、当事者側にもたくさんある。

newsweekjp_20240325001155.jpg大塚 訓平(おおつか くんぺい)

NPOアクセシブル・ラボ代表理事。2006年に株式会社オーリアル(不動産業)を創業。その3年後、不慮の事故により脊髄を損傷し、車いすでの生活に。以来、障害当事者の住環境整備にも注力し、2013年には障害者の外出環境整備事業を展開するNPO法人アクセシブル・ラボを設立。世の中に潜むあらゆる社会障害をPOPに解消すべく、インクルーシブデザインを活用した製品・サービス開発、建築面でのアクセシビリティ向上に関するアドバイス、コンサルティング事業を中心に展開。

ニューズウィーク日本版 トランプvsイラン
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月8日号(7月1日発売)は「トランプvsイラン」特集。「平和主義者」の大統領がなぜ? イラン核施設への攻撃で中東と世界はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

財新・中国製造業PMI、6月は50回復 新規受注増

ビジネス

マクロスコープ:賃金の地域格差「雪だるま式」、トラ

ビジネス

25年路線価は2.7%上昇、4年連続プラス 景気回

ビジネス

元、対通貨バスケットで4年半ぶり安値 基準値は11
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中