最新記事
ウクライナ情勢

【ルポ】子供たちをロシアの「同化キャンプ」から取り戻す...ウクライナの母親たちがたどる過酷な旅路

THE KIDS AREN’T ALRIGHT

2023年8月4日(金)13時20分
リズ・クックマン(ジャーナリスト)

230808p18_UNK_06.jpg

救出された子供と言葉を交わすセーブ・ウクライナのクレバ EMRE CAYLAK

「ロシア連邦内に1年もいたら、その子の帰国は難しくなる」とクレバは言う。「プロパガンダと洗脳により、自分はロシア人であり、ウクライナは国家ではないと思い込まされてしまう。だから連れ去られた子供たちの救出は待ったなしだ」

セーブ・ウクライナのウェブサイトによれば、これまでに救出した子供の数は200人を超える。なかにはひどい罰を受けたり厳しい管理下に置かれたと話す子もいるし、帰国後に精神科に入院した子供もいる。

マルキナとベルボビツキの子供たちからはひどい扱いを受けたという話は聞かれなかった。だがセーブ・ウクライナによれば、向こうで何があったかについて子供たちが口を開くには時間がかかるケースもあるという。セーブ・ウクライナ主催の記者会見に出席したある子供は、食事をする場所にはゴキブリがいて、枕はかび臭く、たたかれた子供も複数いたと語った。帰国した子供たちは、精神医療の専門家による3カ月間のケアを受けることになっている。

子供たちの居場所の情報は、セーブ・ウクライナの通報用ホットラインを通じ、警察やNGO、それに当事者である母親や子供たちから届く。だが、セーブ・ウクライナのメンバーが国境を越えるのは危険すぎるし、戦時動員のため成人男性はウクライナからの出国を禁じられている。

そこでセーブ・ウクライナは救出ルートのお膳立てをし、寄付金を元に旅費を出すという形で、子供たちの母親や女性の近親者がロシア(もしくはロシアの占領地域)に入る手助けをしている。国境を越えるときに何と言えばいいか、携帯電話からどんな情報を削除しておくべきか、尋問を受けた際はどう対応したらいいかといった指導も行う。

過酷な旅で命を落とした祖母

他の女性たちと共にキーウを出た時、マルキナの手は震えていた。「何か手違いが起きて、娘たちのところにたどり着けないのではないかと本当に怖かった」とマルキナは言う。一行はベラルーシから空路、モスクワに向かい、そこからクリミアまでの1600キロを車で移動した。検問に遭ったり何時間も尋問されるなど肉体的な負担は大きく、65歳だったオルガという女性はクリミアに入る数時間前に心臓発作で死亡した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:中国で値下げ競争激化、デフレ長期化懸念 

ワールド

米政権、農場やホテルでの不法移民摘発一時停止を指示

ワールド

焦点:イスラエルのイラン攻撃、真の目標は「体制転換

ワールド

イランとイスラエル、再び相互に攻撃 テヘラン空港に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    【動画あり】242人を乗せたエア・インディア機が離陸…
  • 5
    メーガン妃がリリベット王女との「2ショット写真」を…
  • 6
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 7
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 8
    ゴミ、糞便、病原菌、死体、犯罪組織...米政権の「密…
  • 9
    先進国なのに「出生率2.84」の衝撃...イスラエルだけ…
  • 10
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 6
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 7
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 10
    救いがたいほど「時代錯誤」なロマンス映画...フロー…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中