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焦点:イスラエルのイラン攻撃、真の目標は「体制転換」か

2025年06月14日(土)16時15分

 イスラエルによるイランへの奇襲攻撃には、イラン政府の核開発計画を著しく妨害し、核兵器開発に必要な時間を引き延ばすという明白な目的がある。写真は、イスラエルの攻撃で損傷した建物。6月13日、テヘランで撮影。WANA提供(2025年 ロイター/Majid Asgaripour/WANA)

Crispian Balmer Michael Martina Matt Spetalnick

[エルサレム/ワシントン 13日 ロイター] - イスラエルによるイランへの奇襲攻撃には、イラン政府の核開発計画を著しく妨害し、核兵器開発に必要な時間を引き延ばすという明白な目的がある。しかし、攻撃の規模や標的の選択、ネタニヤフ首相の発言からは、イランの現体制を打倒する「レジーム・チェンジ」が長期的目標であることがうかがえる。

13日未明の攻撃は、イランの核施設やミサイル工場、軍事指揮系統の要人や核科学者を標的とした。「イスラエルの目的の一つはレジーム・チェンジだ」とブッシュ(子)政権で高官だったワシントン近東政策研究所のマイケル・シン氏は語る。

「イスラエルは、イランの人々が立ち上がるのを見たいのだろう」と述べ、民間人の犠牲を最小限に抑えたことも、そのためだと指摘した。

イスラエルのネタニヤフ首相は攻撃開始直後のビデオ演説で、レバノンの親イラン武装組織ヒズボラに対するイスラエルの行動がレバノン新政権樹立とシリアのアサド政権の崩壊につながったと主張。イラン国民に向けて「私は、あなた方の解放の日は近いと信じている。そうなれば、われわれの古くからの偉大な友情が再び花開くだろう」と語った。

しかし、今回の攻撃で前例のない被害を受けたとはいえ、治安部隊に支えられたイラン指導部を退陣させるだけの支持をイラン国民から得られるかは疑問だ。シーア派が大半の国民の間でも反イスラエル感情が根強い。

シン氏は、イランで反体制派が結集するためにどのような条件が必要かは誰にも分からないと警告した。

<軍部切り崩し>

イスラエルがイランの核施設を解体するには、まだ長い道のりがある。イスラエルのハネグビ国家安全保障顧問は「軍事的手段で核開発計画を阻止する方法はない」と国内テレビに語った。

諜報機関モサドの元主任アナリストで、イスラエル国家安全保障研究所の研究者シマ・シャイン氏も「イスラエルはおそらく、米国抜きでイランの核開発計画を止めることはできない」とみる。

イランの核開発計画を後退させることはイスラエルにとって価値がある。ただ今回の攻撃で多くの軍幹部を標的としたのは、安全保障の指導部を混乱させ、体制崩壊への道筋をつけるという意図があったとも考えられる。

シャイン氏は、標的となったイラン軍上層部は経験、実績、知識が豊富で、体制の安定、特に体制の安全保障にとって欠かせないとし、「理想的には、イスラエルは政権交代を望んでいることは間違いない」と述べた。

しかし、そのような変化にはリスクが伴うとジョナサン・パニコフ元米国家情報副長官(中東担当)は指摘する。イスラエルがイランの指導者を排除することに成功したとしても、後継者がイスラエルとの対立をさらに強硬に追求する可能性は排除できない。

「何年もの間、イスラエルの多くの人々は、イランでレジーム・チェンジが起きれば、新たな良い日がやってくると主張してきた。しかし歴史は常に事態は悪くなり得ると教えている」と述べた。

ロイター
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