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【ルポ】子供たちをロシアの「同化キャンプ」から取り戻す...ウクライナの母親たちがたどる過酷な旅路

THE KIDS AREN’T ALRIGHT

2023年8月4日(金)13時20分
リズ・クックマン(ジャーナリスト)

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ロシア軍が撤退の際に破壊したヘルソンの橋 EMRE CAYLAK

子供の強制連行は、国際法に基づく戦争犯罪と見なされている。このため国際刑事裁判所(ICC)は今年3月、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と、マリヤ・リボワベロワ大統領全権代表(子供の権利問題担当)に対して逮捕状を発行した。リボワベロワは自らも、15歳のフィリップという少年を激戦地マリウポリから養子に迎えている。

だが、ごくひと握りの子供たちはウクライナに帰国を果たした。ヤーナやイェバもそうだ。マルキナやベルボビツキらヘルソンの学校の母親たちは、地元メディアを通じてウクライナの子供たちの帰還を交渉・手配する慈善団体セーブ・ウクライナの活動を知った。

2カ月にわたる交渉と念入りな計画を経て、今年4月上旬、13人の女性グループが、ポーランドとベラルーシを経由してロシアに入国。そこから大変な遠回りをしてクリミア半島西岸のキャンプ場にたどり着き、31人の子供たちと再会を果たした。

「足首が腫れ上がって、何も感じないほどしびれてしまった。本当に長く厳しい旅だった。でも、娘たちを連れ戻すことができた」と、1週間後に首都キーウに戻ったマルキナは、目に涙を浮かべて語った。

「とても幸せだ」と、ユーラのスエットパンツ姿でバスを降りてきたベルボビツキも言った。「息子を取り戻すことができて、ようやく自分の欠けていた部分が元どおりになった気がする。今までは酸素がないみたいに苦しかった」

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待ちに待った再会を喜ぶ家族 EMRE CAYLAK

セーブ・ウクライナは子供たちの救出活動の一方で、ICCの捜査にも協力している。セーブ・ウクライナのCEOを務めるミコラ・クレバによれば、子供たちが「サマーキャンプ」から戻ってこないという声が母親たちから上がり始めたのは昨年8月で、9月には1回目の救出作戦を実行したという。

ロシアにはかつて、出身国の同意なしに外国人の子供と養子縁組することを禁じる法律があったが、昨年5月に要件を緩和。ウクライナ人の子供との養子縁組を望むロシア人家庭には助成金も出る。

ウクライナの人権団体「人権問題地域センター」は1月、ロシア政府の発表を基にした試算によれば、少なくとも400人のウクライナ人の子供がロシア人家庭に引き取られたとみられると発表した。米エール大学の人道研究所は2月、ウクライナの子供たちを洗脳してロシアの歴史やプロパガンダ、言語や文化を教え込む「同化キャンプ」を32カ所確認したとする報告書を発表している。

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