最新記事
ウクライナ戦争

プーチンの恥部を知っている男、ガバナンスが失われつつあるロシア 河東哲夫×小泉悠

THE DECISIVE SEASON AHEAD

2023年4月4日(火)20時15分
小泉 悠(軍事評論家)、河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)、ニューズウィーク日本版編集部

今のロシアがそこまで行っているとは感じないものの、軍隊以外のさまざまな連中がなぜか自動小銃やロケット砲を持って戦い、1つの都市を落とそうとしている。しかも、軍隊の制服組と民間軍事会社を仕切っているプリゴジンは仲が悪い......。

やはりこれは近代国家の戦争ではないと思います。中世の戦争。領主1人につき従者は何人で、何日までは戦闘に従事せよ的な、帝国的な秩序の中での戦争です。

ただ、プーチンはこれで全部グダグダになって構わないというようなヤワな男ではなく、プリゴジンが成果を上げてドヤ顔をしだすと、抑えにかかる。最近はワグネルがロシア軍から砲弾を供給してもらえないとか、政治の中枢でもプーチンから遠ざけられつつあるとか、いろいろな話が飛び交っています。

軍にはっぱをかける材料としてプリゴジンは便利だったが、あまり調子に乗るなよ、というところもあるのでしょう。

かといって、プーチンは昔からの仲間を完全には切り捨てられない。それは温情ではなく、昔の彼の恥部をたくさん知っているからなんです。

プリゴジンに関して言うと、公式のストーリーでは刑務所から出た後にサンクトペテルブルクでホットドッグの屋台を始めて大成功したことになっています。ところが、10年前の(ロシアの独立系新聞)ノーバヤ・ガゼータを見ると、プリゴジンの本業はサンクトペテルブルクの闇カジノだった。

当時の闇カジノ撲滅委員長であったサンクトペテルブルク副市長のプーチンに取り入って、ウチのカジノだけはお目こぼしをしてくれというような関係を築いて、親しくなっていった......ということがその記事には書かれていた。

どこまで本当か分かりませんけど、サンクトペテルブルク副市長で、対外経済委員会や闇カジノ撲滅委員会の委員長だったプーチンが、当時相当な利権の上で悪いことをしたのは、周辺状況から明らかなわけです。

その時のことを知っている人たちというのは、遠ざけはしても完全にたたきつぶせないでしょう。でなければ、本当に口封じをするしかなくなってしまう。このプリゴジンとプーチンの変な共生関係というのは続くんじゃないでしょうか。

※この続きは、本誌2023年4月11日号「小泉悠×河東哲夫 ウクライナ戦争 超分析(第2弾)」特集に掲載されています。


小泉 悠(軍事評論家)
東京大学先端科学技術研究センター(グローバルセキュリティ・宗教分野)専任講師。著書に『ウクライナ戦争』『「帝国」ロシアの地政学』など。

河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)
外交アナリスト。ロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン「文明の万華鏡」主宰。著書に『日本がウクライナになる日』『ロシアの興亡』『遙かなる大地』(筆名・熊野洋)など。

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英、金融指標の規制見直し 業界負担を軽減

ワールド

韓国、ウォン安への警戒強める 企画財政相「必要なら

ワールド

米、台湾への新たな武器売却承認 ハイマースなど11

ワールド

マクロスコープ:意気込む高市氏を悩ませる「内憂外患
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中