最新記事

ウクライナ情勢

米独の戦車合意が「微妙すぎる」理由──アメリカの真の狙いは

A Delicate Pact for Tanks

2023年1月31日(火)11時50分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
戦車

ウクライナはレオパルト2など欧米製戦車300両を求めている PHILIPP SCHULZEーPICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES

<ようやくウクライナへの供与が決まった最強戦車、実は消極的だった両国の思惑と決断の皮算用は>

アメリカが米陸軍の主力戦車「M1エイブラムズ」をウクライナに供与する一方、ドイツは世界最強とされる自国製の「レオパルト2」戦車を提供し、欧州内のレオパルト保有国の供与も認める──。

【関連記事】米ロの主力戦車「エイブラムス」と「T90」の性能を比較すると?

1月25日、米独両首脳がそれぞれ、そう発表した。両国の間で合意がまとまったのは、その前日のことだ。

ドイツのオーラフ・ショルツ首相は国民の反対の声やロシアの反発を懸念し、レオパルト供与には後ろ向きだった。アメリカも主力戦車を供給するのでなければ、ドイツとしては応じられない、と。

今や折り合いはついた。アメリカが提供するのは、ウクライナ軍の戦車大隊1個分を編成可能な31両。配備は数カ月先の予定で、実際には1年ほど後になる可能性がある。

時間がかかるのは、新規調達する必要があるためだ。米陸軍はエイブラムズ約4400両を保有し、既に多くを欧州内に配置している。既存の戦車を即時供与し、新たに製造したものと後で交換することにしなかったのはなぜか。複数の米高官に尋ねたが、明確な回答は得られなかった。

在庫から供給する場合、部分的な変更が必要になるのは確かだ(輸出版エイブラムズは米軍用と同水準のテクノロジーを装備していない)。それでも、新規に調達するより時間がかからないだろう。

米国防総省やホワイトハウスの高官は従来、供与に反対していた。彼らに言わせれば、エイブラムズは構造が複雑すぎて(故障しがちであり、特に燃料補給に際して、補給ラインへの依存度が高すぎるため)ウクライナ軍が運用・維持管理するのは難しい。1月20日の時点でも、あるホワイトハウス関係者は筆者に、米政権が供与に踏み切ることはないと語っていた。

現実的な効果は未知数

反対派は意見を変えたわけではない。米国防総省内では今も、ウクライナでの戦争に適していないと主張する向きが多い。それでもドイツにレオパルト供与を決断させるには、エイブラムズを提供しなければならないと、ジョー・バイデン米大統領は判断し、多くの側近が同意した。

形式的な措置として、ごく少数だけ提供してはどうかという外部からの提案もあった。だがこれには、あまりに見え透いたやり方だとの異論が供与反対派からも出た。その結果、戦況に目に見える変化をもたらすのに十分な規模、つまり戦車大隊1個分を提供する妥協案がまとまった。

とはいえ、実際にどれほど変化が生まれるかは不明だ。主な目的は「ウクライナの長期的な防衛体制強化」だと、米政府高官の1人は発言する。エイブラムズは「今後数カ月、数年」単位で同国の安全保障を強化するという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EUメルコスルFTAに暗雲、仏伊が最終採決延期で結

ワールド

NZ、今後5年は財政黒字化せず 景気低迷が重し

ワールド

ベネズエラ大統領がベラルーシ移住なら歓迎=ルカシェ

ワールド

アングル:物価高はトランプ氏のせいか、支持者が大統
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中