最新記事

人権問題

ロシアで服役中の米国人が送る拷問の日々...家族が語るウクライナ戦争後の変化と不安

My Twin in a Russian Prison

2023年1月26日(木)18時01分
デービッド・ウィーラン(専門図書館司書)
ロシアで拘束されたポール・ウィーランと家族

2016年に撮影した家族の集合写真。後列中央がポール、同右がデービッド COURTESY OF THE WHELAN FAMILY

<2018年にロシア当局にスパイ容疑で拘束され、懲役16年の判決を受けた元米海兵隊員ポール・ウィーランの釈放を働きかける家族の奮闘の日々>

沈黙は最悪だ。私の双子の兄弟ポール・ウィーランは今、人質としてロシアの刑務所に入れられている。だから連絡がないと心配だ。いや、いつだって心配しているが、声を聞けないと不安が募る。

ポールはほぼ毎日、家族に電話をよこす。その電話が来ないのは、いつもの人権侵害以上の何かが起きている証拠だろう。彼が毎晩、2時間おきに起こされることは知っている。2年もの間、2時間以上まとめて眠ることを許されない状況を想像してくれ。30日も独房に閉じ込められたことがあるのも知っている。それは「拷問」だと、国連も言っている。

両親への電話。今はこれだけが頼りだ。私がポールに会ったのは2018年10月が最後だ。ミシガン州にある実家で会った。そのとき彼は、今度のクリスマスはモスクワに行って、昔の海兵隊仲間の結婚式を手伝うことになると言った。両親の世話は心配するな、と私は返した。そのときは、まさかポールのことを心配する日が来るとは思ってもいなかった。

電話が途絶えたのは昨年の9月と11月。後にポールは、あのときは(民間軍事会社の)ワグネルが刑務所に来ていたと説明してくれた。連中は服役者に、ウクライナの戦場に行く気があれば刑務所から出してやると言っていた。その話がばれては困るから、刑務所側はポールを所内の病院に閉じ込めて口を封じた。

ポールは看守に、感謝祭なのに電話がなければ家族が心配すると抗議したという。そういう話を聞けたときはうれしかった。悪名高いロシアの刑務所病院から無事に生還できただけでも、せめてもの幸いだ。

沈黙の日には、最悪の事態を覚悟してしまう。逆に、最善のこと(=釈放)を期待したりもする。いずれにせよ、連絡がなければ何も分からない。昨年12月には(違法薬物所持の容疑でロシア側に拘束されていた女子バスケットボール選手の)ブリトニー・グライナーが釈放されて帰国したが、その前後もポールは毎日、刑務所から電話してきた。

毎日午後1時に両親は電話の前に座る

グライナーが釈放されたのは喜ばしいことだ。でも、それで私たち家族の日常が変わるわけではない。今の私たちには2つの顔がある。淡々と仕事をし、隣人と談笑し、庭の手入れや犬の散歩をしたりする顔と、別なルーティンをこなすときの顔だ。

毎日午後1時になると、両親は電話の前に座ってポールからの電話を待つ。電話が来たら、元気かいと聞き、欲しいものはないかと尋ねる。こちらからは、地元のお祭りとか愛犬フローラの最新のいたずらなど、できるだけ明るい話題を伝える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フジ・メディアHD、株主総会で取締役選任の会社提案

ビジネス

焦点:超長期国債「消却案」、年末にかけ再浮上も 歳

ワールド

米民主のNY市長予備選、左派が勝利へ クオモ氏敗北

ワールド

米CDC提出予定文書が架空研究引用か、反ワクチン派
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 4
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 5
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 6
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 7
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 8
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 9
    「温暖化だけじゃない」 スイス・ブラッテン村を破壊し…
  • 10
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中