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宗教2世

伝道に連れ回され、教義のために学校で孤立 自己決定権を蔑ろにされる宗教2世の実情

2022年12月2日(金)11時15分
荻上チキ(評論家、社会調査支援機構「チキラボ」代表)

子どもの自己決定権を奪う対応については教団の是正も必要だが、加えて地域社会の役割も重要だ。社会の側に宗教全般への偏見が存在する場合、当事者が相談しやすい環境は作りにくい。「宗教弾圧と宗教差別は許されず、子どもの権利確保が重要なのだ」という視点を忘れてはならない。

野党によるヒアリングで印象的だったのは、立憲民主党の古賀千景議員の発言だった。古賀議員には教職経験があり、エホバの証人などの2世児童を受け持つ機会もあったという。そのような時には、例えば「運動会の特定競技に参加してはいけない」という2世児童に放送係の手伝いをしてもらうなどして、クラスメイトから浮かないための配慮を心がけたという。

実際、アンケートにも、学校行事への不参加を求められ、辛い思いをしたという記述は多く寄せられた。(※コメントは原文ママ)


●幼稚園に通えなかった。集まりで学校を休まなければいけなかった。運動会で出ることのできない競技があった。柔道剣道は授業を受けさせて貰えなかった。

●小4の頃の担任に、クラス全員の前で学級委員の選挙に投票しないことを一時間以上責め立てられ、泣きながら立ち尽くしたことがある。運動会の応援合戦や騎馬戦、林間学校のキャンプファイヤーへの不参加の間は信者の子どもたちだけ隔離されていた(他の生徒にからかわれないようとの配慮もあった)。

●体育、運動会への不参加から冷たく見られた(柔道、騎馬戦、棒倒しなど)

●運動会体育祭の騎馬戦や応援合戦に参加出来ない。校歌国歌斉唱が出来ない。国旗掲揚時にそちらを向くことが出来ない。原爆ドームへ奉納する千羽鶴を折れない。生徒会選挙に参加出来ない。クラスメイトの誕生日を一緒に祝えない等。色々と制限されていたせいで、友人がほとんど出来ませんでした。孤独な学生時代でした。

●学校活動でできないこと(誕生日会に出ること、運動会の騎馬戦など戦いを想起させること、応援団の加入など)については自分で証言をしなければならず、そのために遠巻きにされたりすることはありました。

niseibookthumbnail_obi.jpgさまざまな信仰を持つ児童生徒が教室にいる場合、子どもたちが差別を受けないで済むような教室運営や、生徒個々人への合理的な配慮も重要となる。ましてや、教員が生徒を叱り飛ばしたり、辱めを与えるようなことはあってはならない。

家庭、教団、地域社会、行政。それぞれが必要な配慮を模索し、子どもの権利を確保すること。そのことを考えるためにも、2世たちの経験してきた事例を共有していかなくてはならない。

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日本人が知らない、少年非行が激減しているという事実

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<非行少年の検挙・補導人数は、1983年をピークに減少傾向が続き、現在は10分の1にまで減っている>

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「ツイッター終了」の未来

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<イーロン・マスクによる買収以降、大混乱に陥ったツイッター。一部の噂通りもしなくなったら、我々のメディア環境は劇的に変わる>

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岸田辞任ドミノの遠因──「パー券政治」というカラクリが日本政治をダメにしている

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<1カ月で大臣3人が辞任に追い込まれた岸田内閣だが、閣僚の政治資金規正法違反は本当に形式犯なのか。政治家事務所による、ずさん会計処理の背景にある「パー券政治」を考える>

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「国産小麦、オーガニック、天然酵母」=安全安心ではない!? 人気の高級ベーカリーに隠れたカビ毒のリスク

2022年11月27日(日)11時50分
松永和紀(科学ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載
小麦とパン

mesut zengin - iStockphoto


「国産小麦、オーガニック、天然酵母」を謳う高級ベーカリーにも、実はかび毒のリスクがある。科学ジャーナリストの松永和紀さんは「小麦のかび毒をゼロにすることはできないが、農薬を使えばある程度まで抑え込める。有機栽培の小麦製品には注意が必要だ」という――。

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宗教

「地獄に落ちる」と脅され続けた──宗教2世1131名に聞いた、心理的虐待の実情

2022年11月25日(金)19時00分
荻上チキ(評論家、社会調査支援機構「チキラボ」代表)
要望書を提出し、会見で発信をする2世当事者たち

要望書を提出し、会見で虐待の実態を発信する2世当事者たち 提供元:http://Change.org

<恐怖を煽り、自尊心を傷つける宗教的な声がけについて、「虐待防止の観点から議論することが必要」と荻上チキ氏は言う。同氏が代表を務める社会調査支援機構チキラボが宗教2世1131名を対象に行った調査には、具体的な虐待体験が数多く寄せられた>

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