最新記事

宗教

「地獄に落ちる」と脅され続けた──宗教2世1131名に聞いた、心理的虐待の実情

2022年11月25日(金)19時00分
荻上チキ(評論家、社会調査支援機構「チキラボ」代表)
要望書を提出し、会見で発信をする2世当事者たち

要望書を提出し、会見で虐待の実態を発信する2世当事者たち 提供元:http://Change.org

<恐怖を煽り、自尊心を傷つける宗教的な声がけについて、「虐待防止の観点から議論することが必要」と荻上チキ氏は言う。同氏が代表を務める社会調査支援機構チキラボが宗教2世1131名を対象に行った調査には、具体的な虐待体験が数多く寄せられた>

11月は「児童虐待防止推進月間」となっている。虐待は、子どもの成長と人格形成に深刻な影響を与える。厚労省を中心にさまざまなキャンペーンが行われている。他方で、いま問題となっている宗教2世の問題改善に欠かせない「宗教的虐待」をめぐる法改正の議論について、政府の歩みは遅いままだ。

宗教2世当事者の有志らは、10月の段階から法改正の要望書を提出している。そこでは、児童虐待防止法の改正を求めるとともに、具体的な改善点がいくつも要望されていた。

・恐怖による行動の制限・強要を心理的虐待として扱うこと
・武道への参加禁止など、児童が教育を受ける機会を著しく妨げる行為を教育ネグレクトとして扱うこと
・児童の発達に必要な経済力を有する義務の放棄を経済ネグレクトとして扱うこと
・他者に虐待行為を行うよう誘導・指導する行為を刑事罰化すること
・宗教2世等、特殊な事情背景をもつ児童を救済するための対応マニュアルを整備すること
・児童相談所や子どもシェルター等の支援機関への予算拡充

これらの要望は、いずれも2世当事者から出されたものであるだけに、被害の実相を反映したものとなっている。このうち、「恐怖による行動の制限」といった心理的虐待とはどういうものなのだろうか。

「見捨てられ不安」を利用し、帰属を求める

一般的に心理的虐待とは、例えば「大声や脅しなどで恐怖を与える」「無視したり拒絶的な態度をとる」「自尊心を傷つける言葉を繰り返し使う」「兄弟間で差別的な扱いをする」といったものを指す。では、心理的虐待と、宗教2世体験とは、どのように関わりうるのだろう。

niseibookthumbnail_obi.jpgまず多くの宗教2世は、物心がついた頃から「信者」とされ、宗教行事などへの参加や、祈りの時間の確保などを求められる。また、「神様が見ているからね」「読経を頑張ったら報われるからね」といったような、さまざまな「宗教的声がけ」を、親や信者たちから繰り返される。

もちろん、2世当事者がその世界観に納得していたり、行事参加などに合意し、精神的な健康も確保されているのであれば良いだろう。だが、なかには恐怖心や罪悪感を与えたり、家族や神からの「見捨てられ不安」を利用したりすることで、特定宗教への帰属を求めるものも珍しくない。

宗教を口実に、さまざまな虐待をされることもある。心理的虐待の場合、例えば「大学に落ちたのは信心が足りないからだ」「お前の祈りが足りないせいで家族が不幸になった」といった具合である。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中