最新記事

宗教2世

伝道に連れ回され、教義のために学校で孤立 自己決定権を蔑ろにされる宗教2世の実情

2022年12月2日(金)11時15分
荻上チキ(評論家、社会調査支援機構「チキラボ」代表)

何を、どのように置き換えれば、子どもにとって安全か。「宗教儀式を行う際の子どもへの安全配慮義務や自主性の尊重」など、法的あるいは自主的な取り組みが必要となる。

子どもが自主的に脱会できる制度があればもちろん望ましい。ただ、家族と同居し、なおかつ経済的にも依存している親の意向に反して脱会することは困難を伴う。

その点、意に反する宗教参加を「宗教的虐待」と位置付けるだけでなく、子ども行政相談や「子どもコミッショナー」「子どもアドボケイト」などの導入によって、直接子どもを支援できる体制は必要だろう。

宗教から距離を取るための手段はなにも「脱会」に限らない。「宗教行為への参加度合いの自己決定権」が子どもにあることを前提としたうえで、親の希望との調整を行うこともまた、重要な「距離の取り方」である。

例えば集会や奉仕活動への参加に納得できないような2世の声はとても多い。具体的な事例を見てみよう。(※コメントは原文ママ)


●集会への参加(週3回、宗教についての考えを深める為の集まり)、奉仕活動(週2回、名前は奉仕活動だが、いわゆる宗教勧誘=個人の自宅を訪問して勧誘する)、大会(年2回ほど行われる大人数で集まる集会。自分たちの場合、名古屋ドームなどを使用したこともある)

●近所の家を訪問する活動を強要された。暑い中、歩くのは嫌だったし、行きたくないと言うと、家に置いていかれて、ひとりぼっちにさせられてしまうのも嫌だった。

●小学生の頃、「集会に行きたくない」と泣いて逃げようとしても両親に無理やり車に乗せられて、チャイルドロックをかけられて連れて行かれた。ものすごくつらかった。力の差がありすぎたので次第に諦めて、目に見えるような抵抗はしなくなった。

●海外宣教への参加。本当は行きたくなかったが、親の信仰の結実であると諭されて、泣く泣く参加した。

「伝道活動に連れ回さないでほしい」「週に3回の会合参加ではなく、月に一回にしてほしい」「読経しなくても怒らないでほしい」といった要望は、いずれも正当なものである。こうした調整ができるように子どもをサポートする仕組みなどは必要だろう。そのためにも、児童福祉分野への財源確保や、宗教関連事例の共有などが必要となる。

学校生活と教義の間で苦しむ2世

チキラボの調査では、「信者であることが理由で、学校や友人、恋人や会社・職場などから、理不尽な対応をされたと感じたこと」についても尋ねた。この質問に対しては、3割以上の回答者が「頻繁にあった」「たまにあった」と答えている。

特に高い数値を示したのはエホバの証人の2世回答者だ。実に55%以上が理不尽な対応の経験が「頻繁にあった」「たまにあった」と回答。

エホバの証人2世の場合、学校行事への参加の制限項目が多く、また伝道活動として個宅訪問に連れて行かれることが多い。活動や教議の内容に社会と衝突するようなものが多く、子どもが矢面に立たされたり、板挟みになる機会が多いと考えられる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは155円前半、一時9カ月半ぶり高値

ワールド

被造物は「悲鳴」、ローマ教皇がCOP30で温暖化対

ワールド

サマーズ氏、公的活動から退くと表明 「エプスタイン

ワールド

米シャーロットの移民摘発、2日間で130人以上拘束
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中